そう口を尖らせていると、ふと説明を思いついた。




「あ。」


「何」


「…空気の上を踏みつけて越えていくような、そんな感じ」


「へぇ」


「伝わった?」


「全然」


「なっ!」


「嘘。…なんとなく伝わった」



日向は悪戯っぽく笑った。



そんな表情を見ていると、何故だか胸が苦しくなった。



「っ…」


「じゃあさ」


「うん…」


「"走る"ってどんな感覚?」




それは…



あなたが誰よりも、一番よく知っていたはずなんだよ…







涙を堪えて、あたしは背筋を伸ばした。



「風になること。」


「…え?」


「走ることは風になること。透明な、風になること。


…ある人がね、以前にそう言ってた」




こんなに切ない気持ちは、初めてだった。