「っ…」
口を固く結んで、目を閉じた。
瞼に柔らかい風を感じて心を落ち着ける。
ーーーー「あの…先生」
「はい」
「日向の記憶が戻る可能性は…」
「なんとも言えません」
ふとした衝撃で"戻る"かもしれない。
一生"戻らない"かもしれない。
…確かなことは何一つ無かった。
足だって、リハビリを重ねれば"歩ける"かもしれない。
けれど傷があまりに深く足を砕いているせいで、"動くのが精一杯"になるかもしれない。
…日向が再び走れるようになる可能性は、悲しいくらいに小さくて。
「とにかく、信じよう。
俺はずっと、ずっと日向を待ってる」
結局大会を辞退した隆史先輩はそう言った。
三年生は引退しても自主練を続けながら、あの部室で日向を待っていた。
二年生も…
そして、拓巳とあたしも…