「っ、先生…!」
「一命は取り留めました」
その言葉に、全員が熱い息を漏らした。
…でもあたしは、まだ息がつけなかった。
医師の険しい目付きが、何かを暗示していたから。
…そして、それをあたしは一番恐れていたから。
その悪い予感は当たっていた。
「…ですが、大きなリスクを背負っています。落ち着いて聞いて下さい」
「え…?」
医師の重々しい言葉を、あたしの心は怖いぐらいに冷静に構えていた。
「複雑骨折が非常に多く、特に腱を酷く損傷しています。…歩くことが、難しくなるかもしれません。
…脳に関しましては、後日もう一度CTスキャンを使用して詳細を調べますが。
様子によると…記憶を失っている可能性が、高いと思われます。」
――――…目の前に、暗闇が広がった。
風も地面も…この世界には、何も無い。