そう拓巳が笑っても、以前のように空気が凍ることはもうなかった。
「いーや、日向はお前より断然口悪かったしな」
「隆史先輩のこと明らかにバカにしてましたしね」
「う、思い出したくないことを!」
もう日向の話題を出しても、大丈夫だった。
…諦めた、というよりは。
時間が…全員を、大人に変えたのだろう。
きっと、それだけのことだ。
「しっかしあいつ、今どこで何をしてんのかね…」
「…本当、気まぐれな奴ですよね」
…あの日を境に、日向はいなくなった。
退学届けを持ってきた日向のお母さんは、全て事情を知っていたはずだけれど。
告げることなく…彼女も、どこかへと引っ越してしまった。
きっと日向の後を追ったのだと思う。
…何度迎えに行っても、そこには空き家があるだけだった。
皆が思う程、あたしは驚いてはいなかったんだけど。
…あたしはそう、反芻する。