皆が…日向を見ていた。
瞬きすら忘れる程に、まっすぐと。
その視線に全く怯むことなく、日向は口を開いた。
「どうも。藤島学園陸上部三年、中距離を走ってた相原です。
…んと、この競技場に来るのは一年ん時以来だから…二回目だな。
顔を覚えてる人も数人います。…あ、一緒に走った奴」
日向がそう笑い掛けた他校の男子は、少しはにかんだ表情で手を振った。
「一年ん時の陸上競技大会の後…俺は事故で足を砕いて、一時的に記憶喪失になりました」
話を聞く人の目は…皆真剣だった。
中には衝撃を受けたように、目を見開く人もいた。
…ここにいる人は皆…陸上を愛してるから。
日向の苦しみにきっと…寄り添ってくれるんだ。
「その出来事は本当に衝撃的で。
今でも思います。
…もし記憶が戻っていなかったら、それはそれでこんなに苦しい思いをしなかったのかもしれない。
走れない辛さを…知ることはなかったのかもしれない」