「短距離部門、出場者は指示に従って…」
「…ほら、行けって」
俺はにっと笑って、短距離を走る一年の髪をくしゃくしゃにしてやった。
「わ、やめて下さいよー」
「いーから。…頑張ってこいよ」
「はいっ」
皆に背中を押されて、スタンドを降りてスタートの方へと駆け出していく。
…その後ろ姿は懐かしくて、゙あの日゙を思い出させた。
゙透明な風になれ゙
隆史先輩がそう呟いた言葉。
…俺は全く同じ言葉を、その後ろ姿に呟いていた。
いや、多分人によって風の色は違うんだろう。
違ってもいい。
違うからいい。
それぞれ、自分らしい…自分なりの風になれたらそれでいいんだ。
「「…頑張れ」」
その言葉が、隣でクリップボードを握り締めていた柚とハモった。