不意に胸が熱くなって。
…苦しくて、切なくて…
「柚ちゃ…」
力が入らなくなってふらり、とした体を傍にいた愛ちゃんに支えられそうになった時。
「…ちょっと、いいかな?」
ずっと静かにその様子を見守っていた拓巳が、そう言った。
「たく…み?」
「陸上部部長として…皆に伝えたいことがあるんだよ」
あたしが目を向けると、拓巳はその視線を受け止めてくれて。
…静かに微笑んだ。
まっすぐな瞳だった。
「あいつは…大切な陸上部員だ」
「…っ」
「走る、走らない。
…その選択をするのに、多分あいつは一生の中で一番と言っていい程苦しんだと思う。
一生分の…涙を使ったかもしれない」
一番後ろの席に座ったままの拓巳の言葉に。
…担任も
あたしも
そして皆も
…静かに耳を傾けていた。