そんな騒ぎを俺は…まるで他人事のように見つめているだけだった。
諦観することしか出来なかった。
…痛みさえも感じない、足と体を担架に乗っけたまま。
心はまだグラウンドにあったから。
「…っ」
…静かに目を閉じると。
意識だけは、悲しいぐらいに自由に動いて。
忘れまいとする記憶の海の中を…ゆっくりと、ゆっくりと泳いでいった。
――――――
―――――
――――柚と出会ったのも、春。
「近所に住んでる、ゆずちゃんよ。仲良くしてね」
「ゆず?誰だそれ」
「…あたし」
小学校に入るか入らないか、ぐらいの時期だった。
母さんが連れてきた女の子の名前は、ゆず。
金谷…柚。
ふわふわとした長い髪に白い肌。人形のような見た目だった君は
…実はかなり泣き虫で意地っ張り。