"日向の走る姿が好き"
"なんかね、風に溶け込んでるみたいなの"
いつかそう笑った柚を、思い出していた。
「…」
…柚が俺の走る姿に、恋をしたとすれば。
俺は柚の後ろ姿に…恋をしたのかも、しれない。
「相原」
「…あ、どーも」
「どうだ、調子は?」
学校の廊下で、担任に呼び止められ。
…俺は振り向くと、軽く会釈した。
「まぁボチボチ、ですかね」
「頑張ってくれよ。"藤島の風"なんだから」
緩んだネクタイを軽く締めながら、俺が「大丈夫ですよ」と答えると。
…担任の表情が、ふわっと崩れた。
「相原はいつも余裕だな」
…余裕?