「いや…俺は引退したら陸上は辞めて、頑張って理系の大学に行って…医者になりたいと思ってる」
「な…何お前立派なこと言ってんだよ」
拓巳の偉大な夢に、ほぼ浪人確実な隆史先輩が驚いた声を上げた。
「いや、先輩が適当すぎるだけです」
「お前な…」
「俺も、アスリートは目指してないな」
雄大先輩をきっかけに、他の先輩達も頷いた。
…皆の夢は、アスリートじゃなくて。
この先の未来で走ることがなくても、今この瞬間のために練習を積み重ねている。
そういう、ことだった。
「だってさ、プロの世界って本当に…甘いものじゃない。
…それこそ、何が起きるか分からない世の中なんだ」
拓巳の言う通りだった。
あたし達は、それを誰よりも強く感じているはずなんだ…
「あいつがここにいたら、何て言うかね」
水を一口含んで。
…雄大先輩が何とも言えない目で、机を見つめた。