でも、確かにそうだった。
あたしは陸上をするよりも、見ている方が楽しかった。
陸上に関わっているだけで、幸せだと感じていた。本当に。
「…柚ちゃん?」
「あ…ごめんなさいっ。はい、どうぞ」
お茶を渡す手が、知らず知らずのうちに止まっていて慌てた。
いけない。今は、陸上部マネージャーの仕事に集中しないと。
…集中、しないと。
「っ」
軽く自分の頬をつねると、ふと雄大先輩と目が合った。
「…」
「…ミーティング終わったらさ、日向ん所行こうか」
「ぶっ」
その言葉に、陸上部唯一のスプリンター…真琴先輩がお茶を吹いた。
「マジかよ、雄大。
…だってアイツ、もう走る気が無いんだろ?
陸上をやってきた記憶があっても、もう戻ってくる気が無いんだろ?」