あの日、日向と歩いた茜色の道を…今は拓巳と歩いていた。
「見てみ、柚」
「…っ」
「もうすっかり秋だなー。紫苑(しおん)が咲いてる」
明るい声だった。
明るく、優しくあたしに話を続けてくれた。
「紫苑の別名知ってるか?」
「…ううん」
「勿忘草(わすれなぐさ)って言うんだ」
「…え?」
思わず、拓巳を見上げた。
知らなかった。
勿忘草の名前は知っていたけど、紫苑の別名だったとは。
「…なんか昔の伝説で…
親を亡くした兄弟が、墓参りに行ってそれぞれ持ってきた草花を植えるんだ」
「うん」
「兄が植えたのが、悲しみを忘れるための"忘れ草"。
…弟が植えたのは、永遠に忘れないための"忘れな草"…別名、紫苑」
花言葉は、"君を忘れず"。
拓巳はそう呟くように言った。
「墓を守る鬼は…弟の、親を忘れまいとする心に感心して幸福を与えたんだってさ」