「…母さん」


「何?日向」


「そろそろリハビリ…出来んのかな?」



花瓶の水を入れ替えたりして、病室を軽く掃除していた母さんにそう話しかけると。



…母さんの手が、止まった。



「リハビリ…?」


「歩けるようにはなるかもしれないんだろ?」


「…ええ、そうね」



喜ぶかと、思った。



だけど母さんの目は少し切なげに雲っていた。




「…どうかしたわけ?」


「ううん、なんでも。


…そうよね。頑張らなくちゃね」



気のせいか?



そう思わせるくらいに、次の瞬間には笑顔になっていた。






…俺は本気で、"歩けるように"なれたらそれで充分だと思っていた。



信じられないかもしれない。



だけど俺にとって"歩けない"ことは周りが思う程辛いことではなかった。



だって俺は、歩いていた時の記憶が無いのだから。