「ひな…」
柚の体は楽に俺の腕の中に収まった。
もどかしい感情は余計に高ぶって。
…その"懐かしさ"や"愛しさ"は俺には辛かった。
「…分からない…」
「え…?」
「分かんないんだよ、俺には何も…」
なんでこんなに君が懐かしく愛しいのかも
なんでこの手の平はこんなにも君に沿うのかも
俺の体はまるで、君を抱き締めるために生まれてきたかのようで。
…柚を抱き締めてその髪に指を埋めたまま、俺は自然に涙が零れるのを感じていた。
「分かんないんだ…」
「…っ」
「…ごめん…」
俺の記憶を…
返して下さい。
あるいは俺を
永遠に柚の前から消し去って下さい。
――――…神様は、どこまでも残酷だ。
「っ…」