あたしの緊張がピークに達した時、また女の子の声が聞こえた。


「んなわけないっしょ。鍵かかってるもん。空き教室は、立ち入り禁止じゃん」

「だよねー」


またパタパタと足音が響き始めた。

声は次第に小さくなっていく。


「ねぇねぇ。東校舎にまつわる噂、知ってる?」

「え? なになにー?」

「あのさ……」



やがて足音も声も完全に聞こえなくなった。


もう大丈夫なはず。

だけど、イッペー君はしばらく動こうとしなかった。


気のせいかもしれないけど。

さっきより、さらに顔の位置が近いような気がする。


イッペー君の吐息を感じる。

きっとあたしの唇のすぐそばにイッペー君の唇がある。


「サクラ……」