手首に痛みを感じる。

見れば、イッペー君にがっちりとつかまれている。


「先生は……ずるい」


口から漏れたのはそんな言葉だった。

ずっと触れたかったイッペー君の指。

その指の熱を手首が感じる。

その力があまりにも強くて。


――こんな形であたしを捕らえないで。


だって……溶けてしまう。

あたしの体も心も。


さっきからずっと我慢していた涙腺も。


「ひどいよ……先生が……言わせたんじゃん? そういう風に話、持っていったじゃん」


「うん……」


イッペー君は力をなくしたみたいに、あたしの手首を解放した。


「ごめん……」



何のごめん?

話を誘導したことに対する“ごめん”?


それともあたしの気持ちに応えられないから“ごめん”?


どちらにしても。


その言葉はあたしの心をひどく傷つけた。


「先生の……バカ……」