イッペー君は当時を懐かしむように、目を細めて楽しそうに話している。

そんな姿をあたしはぼんやり見つめていた。


「そしたら、その150……ちょっとしかないような、ちっこいヤツがな。『あたしも撮る』って言って、勝手に同じ風景を撮影してん」

「うん」

「そんで、家に帰って、再生してみたらな」

「うん」

「おんなじ風景やのに、全然違って見えてた。20センチの差っていうの? ああ、あいつの目には、こんな風に景色が映ってるんやな……って、なんか不思議な気持ちになって、繰り返し再生してた。繰り返し……何度も、何度も……」


「……うん」


「オレは今でも時々思うねん。
同じ場所にいても、同じものが見えてるとは限らへん。見る角度によって、目に映るもんは人それぞれやもんな。
ましてやどう感じるかなんて……やっぱりそれぞれで……。
他人の気持ちを理解したつもりになったとしたら、それは“思い上がり”以外のなにものでもない」


そこで、イッペー君はハッとしたような顔をした


「って、オレ、何の話してるんやろ。わけわからんよな」


「ううん……」


あたしは首を振った。


「そういう話好き」


そう言うと、イッペー君は「そっか」と呟いてから、照れくさそうに笑った。


「ねぇ、先生?」


「んー?」


「その子のこと……好きだった?」