「こっちだって、どうしても抜けられない大事な用だったつの!」


ジロリとあたしを睨んでから、お兄ちゃんはタバコに火をつけようとする。

だけど、「あ……」と呟いてその手を止めた。



「お前、風邪か……」


お兄ちゃんは風邪をひいているあたしに気遣って、タバコを吸わないでいてくれた。


そんなに気を遣わなくても、あたしもう大丈夫だよ……


って言おうと思ったら、玄関のドアが開く音がした。



やがてパタパタとスリッパの音を響かせて、リビングにママが入ってきた。


「ただいまー……って、あら? 愛子、起きてたの?」


「うん。もう熱下がったし」


「そう。よかった」


ホッと安心したような顔を見せたママは、


「それなら大丈夫ね」


と振り返ってリビングを出て行ってしまった。




「愛子、もう大丈夫みたいだから。さ、上がって上がって」


そんな声がしたかと思ったら


ママに背中を押されるように、芙美と菊池君がリビングに入ってきた。