「教師であるオレにできることなんて限られてる。
それならオレは、ただここにいることしかできへんけど。
桜の木みたいに、変わらずに、生徒をそっと見守っていきたいって思います。

学校って場所の主役はあくまでも生徒です。
オレはただそこにいるだけの存在でいい」


かみ締めるように呟くイッペー君。


「って、あーまた語ってしまった。教育論を語るなんて10万年早いっすよね。まぁ、今のは適当に聞き流してください」


恥ずかしそうにそう言うイッペー君に、

「いや、お前なりの考えが聞けてよかったよ。ちょっと青臭いけど、それがいい」

と真崎先生は笑った。




“主役は生徒”

“自分はただそこにいるだけの存在でいい”


イッペー君はそんな視点であたしたちを見守っていてくれたんだ。



国語力のないあたしが、先生達の話をどれぐらい理解できたのかわからないけど。

それでも、なぜか涙が止まらなかった。



前にいる二人に気づかれないように、そっと涙をぬぐった。


車が家に到着する直前、真崎先生はイッペー君に、もう一言だけ付け加えた。


「だけど、“先生”であるお前にだって“小寺一平”としての人生があるんだよ」と。