「音楽だけじゃなくて、本や映画なんかも。
あの時に読んだものや観たものに影響された部分は大きいと。
なんていうか……。オレは高校時代ってやっぱり特別な期間だったような気がします。その時は気づかないんやけど。後から振り返ってみれば、駆け足で過ぎ去ったあの時間は、オレにとって特別だったと言い切れます」


「そっか」


「オレが教育論なんか語るのは1万年早いかもしれへんけど……。その特別な時間を、生徒達にはできるだけ悔いの残らないように、有意義に過ごしてもらいたいんです」


もう限界だった。

閉じた瞼から涙がにじむ。



“有意義に過ごす”

そして、

“無事に卒業してほしい”


その言葉にイッペー君の生徒に対する想いが全て込められているような気がした。


イッペー君は生徒の一人としてあたしを大事に思ってくれてる。

もうそれだけで充分だって思うべきなのかもしれない。




あたしは声を押し殺して涙を流す。


その時、しばらく黙り込んでいた真崎先生が口を開いた。



「なるほど…な。

けど、それは……お前のエゴかもしれんよ?」



「え……?」