「真崎先生」


ふいにイッペー君がまた口を開いた。


「ん?」


「オレが教師になったんは……
特に理由があったわけではないです。
教師っていう職業に憧れていたわけでも、何か大きな志があったわけでもありません」


「ああ」


「こんな不景気な時代やし。安定してる職業に就くことを考えて、それがたまたま教師だった。それだけのことです。
こんな軽い気持ちで教師になったオレを軽蔑しますか?」


「いや」


「ほんとに軽い気持ちでした……。けど……」


「けど?」


「初めて全校生徒の前で新任の挨拶をした時……正直ビビりました。
みんなの目が一斉にオレに注がれてて。
大学出たての、なんもできへんオレやのに、生徒の目には“先生”として映ってるんやと。
当たり前やけど、その時にそう感じました」


「うん」


「オレは“先生”であるべきなんやと……」