「いいよ。帰り道だし」


そう答えたのはおそらく生物の真崎先生。

真崎先生は40代半ばぐらいのベテランの先生だ。


どうやらこの車は真崎先生のものらしい。




「なぁ。小寺」


「はい」


「この1年間、教師やってみてどうだった?」


真崎先生の問いかけに、ハァ……とため息をつくイッペー君。


「少々、悩み中……です……」


「悩み? どんな?」


「なんていうか……距離感……みたいなものに」


「距離感って、生徒との?」


「ええ」


「そっか。生徒が大事か?」


イッペー君は考え込んでいるのか、しばらく黙って、それからゆっくりと、まるで自分に言い聞かせるように口を開いた。


「大事っすよ……。
大事すぎて……時々どう扱ったらいいかわからんようになります」