イッペー君は口元に手をあてて、大きく息を吐き出した。


「お前なぁ……ほんま、心配させんなよ」


「え……」


「てっきりもう帰ってると思ってたのに。教室の戸締りしにいったら、まだ鞄置いてるし。めっちゃ探したし」


「……」


「まぁ……なんとなく、ここにおるような気はしてたけどな」


「先生、心配してくれたの?」


「うん。“先生”ですから」



イッペー君はうーんと伸びをして、立ち上がった。


「あたしのことなんかほっとけばいいのに……」


ほんとはうれしくて仕方ないのに、こんな可愛くないセリフが口から出てしまった。


「ほっとかれへんよ」


イッペー君はあたしの腕をぐいと引っ張った。


「もう、遅いし。送ってくわ」