「勝手に好きでいたかっただけなのに……。それもダメなの?」


「サクラ……」


眉間にシワを寄せて、つらそうな顔であたしを見つめるイッペー君は、

一瞬こちらに手を伸ばそうとしたけども途中でやめた。



そして

「ごめんな……」

そう呟くと、あたしからフッと目をそらしてしまった。




あたしは何も言わずペコリと頭を下げて、準備室を出た。



その後のことはよく覚えてなくて……。

ふらふらとした足取りでたどり着いたのは、東校舎の空き教室だった。


力の抜けた手で、後ろ側のドアを引いて中に入る。


普段使われていないこの教室は、少し湿った匂いがする。

あたしは何気なく、教室の前方に足を進めた。


黒板が目に留まる。


過去2回、ここに来たことがあったけど。

今まで気づかなかった。


黒板には、たくさんの相合傘が描かれていた。

誰が描いたんだろう……。