イッペー君は机の上を片付け始めた。

山のように積み重なっていた本やプリント類を動かすと、ホコリが舞った。


「うわ。ちょっと寒いかもしれへんけど、窓開けるで」


そう言って、ブラインドを上げて、ほんの少し窓を開ける。


「あ……」


思わず声を上げてしまった。

国語準備室は北校舎の1階にある。

当たり前なことなのに、今まで気づかなかった。


「ここからも中庭見えるんだ……」


窓のすぐそばに大きな桜の木が植えられている。


まだ蕾すらついていない桜の木が。


「なぁ、サクラ」


イッペー君は窓の外をじっと眺めながら言う。



「“桜染め”って知ってる?」