「ねぇ……菊池君」


機嫌悪いのかな……。

ふいにそんな気がした。

さっきから一度も振り返ってくれないから。


あたしが何も言わずに教室を出てしまったから、怒ってるのかな。


「あのさ……教室、まだ人いたし……。先に日誌返しとこうと思って……」


とりあえず言い訳の言葉を探す。


「後でちゃんと話すつもりだったんだってば!」


そこまで言ったところで、菊池君の足が急に止まった。

気づけば廊下の端まで来ていた。

周囲には誰もいない。


菊池君はあたしに背を向けたまま黙っている。

相変わらず手首を握り締めて。


「……“誰にも譲る気ねーから”……」


「え?」