「え……違うの? 大岡越前……ダメ? 菊池君も好きなんでしょ?」

「や、まぁ、たしかに大岡越前はすげーんだけど……って、違くて!」

「え? え?」


わけがわからなくて首をひねっていると、

「ぶはっ」

背後から足音とともに、吹き出すような笑い声が聞こえてきた。


振り返ると、イッペー君が笑いをかみ殺したような表情をしている。



「聞いてんじゃねーよ」


菊池君はちょっとムッとしたような顔でイッペー君を睨む。


口元を押さえながら、「あ、すまん」って謝るイッペー君。


「や、聞くつもりなかってんけど、聞こえてもーた。つか、お前らの会話、全然噛み合ってへんねんけど……」

って肩を揺らしてくっくって笑う。


「ホームルーム始まるでー。そろそろ教室入れよー」


出席簿でポンッて菊池君の頭を叩いて。

いつものようにダルそうにそう言うと、あたし達の横を通り過ぎる。