「……サクラ?」


その声にハッとした。


なのに、またあたしは別のことを考える。


あたしの名字は“咲楽”と書いて“さくら”と読む。

だけど、なぜだかイッペー君に呼ばれている時は、なんだか下の名前を呼ばれているような気分になる。

たとえば、“桜”と書いて“サクラ”と読む名前とか。


だからあたしは、勝手に頭の中で変換するの。

“咲楽”じゃなくて“サクラ”ってカタカナで。


「おーい。サクラさーん、聞いてはりますか~?」


気がつくと、イッペー君に顔を覗き込まれていた。


その距離にトクンって心臓が音を立てた。



イッペー君の……匂いがしたから。