「そうそう。あんなことやこんなこと」


呪文のようにそう唱えるイッペー君。

またスッとこちらに手を伸ばす。


「例えば……」



ゆっくりと近づく指先。


魔法でもかけたの?

あたしの体はイッペー君のせいで、瞬きすらできないぐらいカチンカチンに固まってる。


その指が肩に触れた瞬間、大げさなぐらい体がビクンと反応した。


「はい」


目の前に晒されたのは小さな糸くず。

なんだ。

糸くずを取ってくれただけか。


「ふぇ……」


緊張がほどけた瞬間ヘンなため息がもれちゃった。

目なんて涙目になってるかも。



「お前……わかりやすい反応しすぎ」


はぁ……とため息をつくイッペー君。


「いや、今のはオレが悪いか」


軽く頭を振ると

「じゃな」って、今度こそ自転車をこいで行ってしまった。