このままずっと家にたどり着かなければいいのに……。


なんて思っていた頃、見慣れた住宅街にさしかかった。

家の前まで送ってもらうのは、なんとなく近所の目が気になる。

だから、一つ手前の曲がり角で自転車を止めてもらった。


「先生、ありがと」


帽子とマフラーを返しながら、色んな意味を込めてお礼を言った。


イッペー君はじっとあたしを見つめる。

その目がいつも以上に優しく見えて、慌てて目を伏せた。

トクトクと心臓がうるさい。


「サクラ」


優しい声で呼ばれて顔を上げると、イッペー君の手がスッとこちらに伸びてきた。


「……せんせ……?」


イッペー君はフッと笑みを零す。



その時、あたしの大好きな長い指が……



頬に触れた。