「まぁ……言いたくねーんだったら、言わなくてもいいけど」


木村君は顔を上に向けてハァと白い息を吐き出す。


「ま、咲楽のおかげで……。ちょっと浮上した。あのまま一人で帰ってたら、オレやばかったかも……」


そう言う木村君の足が止まった。


見れば、10メートルほど先の歩道で女の子が一人、立ち止まってこちらを見ている。


「香苗(カナエ)……」


木村君がそう呟くと同時に、彼女はあたし達に背を向けて走り出した。


「木村君!! ひょっとして……今の子って彼女?」


「ああ……」


「追いかけなきゃ!」


そう言いながらハッとした。


「ねぇ! 彼女、あたし達のこと誤解したんじゃない? だから逃げてっちゃったんじゃない?」


こんな夜遅くに女の子と二人っきりでいたら、そう勘違いしちゃうかもしれない。
(まさか時代劇の話題で盛り上がってたなんて思ってもくれないだろうし……)


しかも別れたのが木村君の浮気が原因ならなおさらだ。