僕たちの恋は、オキシトシンが主成分

 俺と伊織(いおり)の出会いは高校生のときだった。

 俺が高三で、伊織は高一。
 同じバスケ部で、俺はキャプテンだった。
 
 伊織は、感情をあまり表に出さないタイプで、いつも黙々と練習に励んでいた。練習以外で話すことはほとんどなく、真面目な子だな、という印象しかなかった。

 ——高校最後の試合、県大会決勝。

 試合終了のブザーが鳴った。最後の十秒まで競り合った試合は、俺たちの勝利で幕を閉じた。

 部員たちが喜びの声を上げながらコートに駆け寄り、ハイタッチをしたり、「部長のおかげです!」なんて声をかけてくれたりした。
 
 今までの出来事が頭の中を次々と駆け巡り、思わず涙ぐんでしまった。
 涙を堪えていると、副部長の曽野(その)が俺を抱きしめ、「マジで楽しかったな」と言った。
 その一言で堪えきれなくなって、曽野と抱き合ったまま泣いた。
 「部長、珍しいっすねー!」という後輩たちの言葉も気にならなかった。みんなの嬉しそうな顔が曽野の肩越しに見えた。
 しかし、一人だけ、違う表情が目に入った。

 それは、伊織だった。
 棒立ちでこちらをじっと見ていた。少し心配になり、曽野から離れて伊織に駆け寄った。

「伊織、大丈夫? 体調でも悪い?」
「……大丈夫です。でも、部長、あとで話があります」

 何か思い詰めたような顔だった。
 退部の相談だろうなと思った。過去にも「話があります」と退部の相談をしてきた部員が何人もいた。

 表彰式や写真撮影、片付けが終わったあと、そろそろ伊織と話そうと姿を探していると、後ろから手首を掴まれた。

「おっ、びっくりしたぁ。伊織、探してたよ」
「行きましょう」

 俺の手首を掴んだまま引っ張るようにして、迷いなく進む伊織。
 掴まれた手首に、次第に力がこもっていくのを感じ、ただ事じゃないなと腹を括りながら、伊織について行った。

 伊織が足を止めたのは、選手控室がある一つ上の階。誰もいない静かな廊下だった。

 窓からの西日が、伊織の横顔をオレンジ色に照らす。
 伏せていた視線がこちらを捉えた。思わず身構えるほどの、鋭い眼光。

「先輩、俺と付き合ってください」
「え……? どういう意味……」
「そのままの意味です」
「付き合うって、そんな、会話もろくにしてな……」
「これから知っていけばいいでしょ」

 静かな廊下に、体育館から誰かの話し声が遠く響いていた。

「好きなんです、藍(あい)先輩のこと」

 伊織の真剣な眼差しに、俺はこくりと頷いた。