これは、ユキとミツバが二年生になってからの事。音楽の教育実習生が来る事になった。歌が上手くてピアノが弾けるだけでなく、何ともきれいな女性だった。男子生徒に大人気だったのはもちろん、女子生徒にも人気があった。
音楽の時間、ミツバは、なんとユキでさえ実習生をじっと見入っている事に気がついた。あれだけ男子に興味がないと言っておいて、実は、きれいな女性には関心があるのかなぁ? と不思議に思った。
「ユキ、ちょっと気になったんだけど。実習生の事、随分とじいっと見ていたよね」
「あ〜、うん。なんだか、よく分からないけど、ちょっと興味があったみたい」
「それで、どういう興味? 確かに、あの実習生、凄く素敵だよね」
「えーと、やっぱり、このユキ、憧れているのかなぁ」
「そうとしか思えないけど。それで、私は、多分、ちょっと、ヤキモチを焼いてるって感じ」
それを聞いて、ユキはびっくりしたという表情をした。
「ミツバ、どうしたの? このユキにとって、ミツバは誰とも比べられない、大事な人だよ。分かっているよね?」
「うん。分かっているとは思うんだけど。ただ、今までユキが女性にああいう態度をした事なかったから」
「あ〜、そうかもしれない。このユキにとっても、ちょっと不思議な感じ。でも、それは〜、多分......、きれいな夕日を見ているようなもんじゃないかな?」
「夕日?」
「うん。夕日は、どんなにきれいでも、自分の物には出来ないし、いつまでも見ていられる訳でもないでよね? ただ、ほんの一瞬の、単なる『憧れ』だよね」
「ふ〜ん。分かったような、分からないような。私は、あの実習生に対して、そういう感情は沸かないから」
「そう? それに対して、このユキにとって、ミツバは、もっと暖かくて、包み込んでくれるような、そして、ずっとそこに居たいようなような感じ。夕日ではなくて、え〜と、例えてみれば......、こたつかな」
これを聞いて、ミツバは大笑いをした。
「私は、『こたつ』? 随分と面白い例えだよね。でも、良かった。ユキが私の事を、そう言う、長い目で見てくれていて」
そんな事があって、二人は相変わらず一緒に居る事が多かったが、ある日、ミツバはユキを散歩に誘った。
「それで、ユキのこたつになった私だけど、ユキを、特別な場所に連れて行きたいんだ。お菓子とロウソクを持っていこうよ」
二人は、海岸沿いの雑木林の中を暫く歩いた。
「ここは、多分、昔の防空壕かなんかだと思う。私は小さい時よくここに来て遊んだんだけど、もう大分来ていなかったんだ。それで、ここを、私たちの秘密のお城にしようよ」
「なんだか少女マンガの世界だね。まぁ、ミツバは少女マンガ好きだから、仕方ないか」
ミツバはユキの手を取って、その洞窟の中に入った。
二人だけの空間で二人だけの一時を過ごしているうちに、夕方になった。外では、少し風が出てきたようだった。ミツバはふと劇の練習の事を思い出していた。ローソクをつけて、ムードを出したつもりだった。それから、ゆっくりとユキに顔を近づけ、唇を少しとんがらして言った。
「ねぇ、ユキ。ここに......」
丁度その時、ピカッという稲光のすぐ直後にドカーンという音がして、地面が揺すぶられた。次に、今まで薄暗く見えていた外の景色が全く見えなくなった。最初、二人は何が起こったのか分からずにいたが、どうやら、雨で地盤が緩んでいたところに、洞窟の入り口にあった大木に落雷して、その木が根っこごと倒れ、入り口をふさいでしまったようだ。
「ユキ、大変だ」
ユキはあっけに取られて声も出ないといった様子だった。暫くの間、二人共何も出来ずにいたが、何とかそこから抜け出さなければならないと考え始めた。ロウソクの光を頼りに、入り口をふさいでいる大木の根っこと土砂を掘り起こそうとしたが、とても二人の人力では出来そうになかった。
それから、少し元気をつけようと、残っていたお菓子を食べた。そうしているうちに、ロウソクが終わってしまい、中は真っ暗になった。数時間経ったと思われる頃、ミツバが柄にもない小さな声を出した。
「ユキ、私寒い。ちょっと風邪気味だったからかも知れない」
ユキは少し考えた後に返事をした。
「ミツバ、こうやって、このユキが暖めてあげるよ」
ユキは、ミツバを抱きかかえるようにした。
「ありがとう。少し温かくなった」
その後、真っ暗な中で、二人は眠った。次にユキが目を覚ました時、入り口の方から、わずかながら光が入っていること気がついた。
「ミツバ、起きて!」
ミツバはまだ、ぐたっとしていたが、やっと目を開けた。
「光?」
「うん。入り口の上の方に穴があるみたい。ミツバ、辛いかも知れないけど、ちょっと手伝ってくれる?」
ミツバはだるそうな体を起こした。
「あの穴を見てみるから、ちょっと肩車して」
「こんなにフラフラしていて、出来るかな〜」
「それじゃぁ、どうするの? ミツバがこのユキの上に乗る?」
「分かったよ。それはあり得ないから、仕方がないか」
ユキは、ミツバの肩にのり、両手でその穴を広げ始めた。二人共泥まみれになりながら、作業を続け、仕舞には、穴から嵐の後の明るい朝日が十分に入るようになった。
「ミツバ、これで助かる。いい? 今度は、このユキがミツバの肩の上で立ち上がるから、しっかりしててよ。そうすれば、穴から外に出られるから」
ユキは、穴から頭を突き出し、外側にあった根っこの一部につかまって、外に這い出た。その直後に、洞窟の中でドスンという音がした。ミツバが倒れたようだった。
「ミツバ、大丈夫? すぐに助けを呼んでくるから、ちょっとだけ待ってて!」
ユキは無い力を振り絞って走り出そうとした。と言っても、実際には、ヨタヨタ歩きをしているような具合だった。やっと一番近くの家にたどり着き、警察、ミツバの両親、そして、ユキの母に連絡をしてもらった。
人々が駆けつけた時、ミツバはかなり弱っていたので、救急車で病院に運ばれた。ユキは、家でシャワーを浴び、着替えてからすぐにミツバの見舞いに行った。
「それで、せっかくユキとの秘密のお城が出来たと思ったら、残念だなぁ。もしかして、あの時、私がユキにせまった事を神様にでも叱られたのかなぁ?」
「がっかりしないで。いつかきっと、二人の秘密のお城を持とうよ。それに、もし、どっちか一人であの中に取り残されていたとしたら、とんでもないことになってたはず。夕べは、二人だから生きて帰ってこれたんじゃない。二人だったから。そして、これからも」
音楽の時間、ミツバは、なんとユキでさえ実習生をじっと見入っている事に気がついた。あれだけ男子に興味がないと言っておいて、実は、きれいな女性には関心があるのかなぁ? と不思議に思った。
「ユキ、ちょっと気になったんだけど。実習生の事、随分とじいっと見ていたよね」
「あ〜、うん。なんだか、よく分からないけど、ちょっと興味があったみたい」
「それで、どういう興味? 確かに、あの実習生、凄く素敵だよね」
「えーと、やっぱり、このユキ、憧れているのかなぁ」
「そうとしか思えないけど。それで、私は、多分、ちょっと、ヤキモチを焼いてるって感じ」
それを聞いて、ユキはびっくりしたという表情をした。
「ミツバ、どうしたの? このユキにとって、ミツバは誰とも比べられない、大事な人だよ。分かっているよね?」
「うん。分かっているとは思うんだけど。ただ、今までユキが女性にああいう態度をした事なかったから」
「あ〜、そうかもしれない。このユキにとっても、ちょっと不思議な感じ。でも、それは〜、多分......、きれいな夕日を見ているようなもんじゃないかな?」
「夕日?」
「うん。夕日は、どんなにきれいでも、自分の物には出来ないし、いつまでも見ていられる訳でもないでよね? ただ、ほんの一瞬の、単なる『憧れ』だよね」
「ふ〜ん。分かったような、分からないような。私は、あの実習生に対して、そういう感情は沸かないから」
「そう? それに対して、このユキにとって、ミツバは、もっと暖かくて、包み込んでくれるような、そして、ずっとそこに居たいようなような感じ。夕日ではなくて、え〜と、例えてみれば......、こたつかな」
これを聞いて、ミツバは大笑いをした。
「私は、『こたつ』? 随分と面白い例えだよね。でも、良かった。ユキが私の事を、そう言う、長い目で見てくれていて」
そんな事があって、二人は相変わらず一緒に居る事が多かったが、ある日、ミツバはユキを散歩に誘った。
「それで、ユキのこたつになった私だけど、ユキを、特別な場所に連れて行きたいんだ。お菓子とロウソクを持っていこうよ」
二人は、海岸沿いの雑木林の中を暫く歩いた。
「ここは、多分、昔の防空壕かなんかだと思う。私は小さい時よくここに来て遊んだんだけど、もう大分来ていなかったんだ。それで、ここを、私たちの秘密のお城にしようよ」
「なんだか少女マンガの世界だね。まぁ、ミツバは少女マンガ好きだから、仕方ないか」
ミツバはユキの手を取って、その洞窟の中に入った。
二人だけの空間で二人だけの一時を過ごしているうちに、夕方になった。外では、少し風が出てきたようだった。ミツバはふと劇の練習の事を思い出していた。ローソクをつけて、ムードを出したつもりだった。それから、ゆっくりとユキに顔を近づけ、唇を少しとんがらして言った。
「ねぇ、ユキ。ここに......」
丁度その時、ピカッという稲光のすぐ直後にドカーンという音がして、地面が揺すぶられた。次に、今まで薄暗く見えていた外の景色が全く見えなくなった。最初、二人は何が起こったのか分からずにいたが、どうやら、雨で地盤が緩んでいたところに、洞窟の入り口にあった大木に落雷して、その木が根っこごと倒れ、入り口をふさいでしまったようだ。
「ユキ、大変だ」
ユキはあっけに取られて声も出ないといった様子だった。暫くの間、二人共何も出来ずにいたが、何とかそこから抜け出さなければならないと考え始めた。ロウソクの光を頼りに、入り口をふさいでいる大木の根っこと土砂を掘り起こそうとしたが、とても二人の人力では出来そうになかった。
それから、少し元気をつけようと、残っていたお菓子を食べた。そうしているうちに、ロウソクが終わってしまい、中は真っ暗になった。数時間経ったと思われる頃、ミツバが柄にもない小さな声を出した。
「ユキ、私寒い。ちょっと風邪気味だったからかも知れない」
ユキは少し考えた後に返事をした。
「ミツバ、こうやって、このユキが暖めてあげるよ」
ユキは、ミツバを抱きかかえるようにした。
「ありがとう。少し温かくなった」
その後、真っ暗な中で、二人は眠った。次にユキが目を覚ました時、入り口の方から、わずかながら光が入っていること気がついた。
「ミツバ、起きて!」
ミツバはまだ、ぐたっとしていたが、やっと目を開けた。
「光?」
「うん。入り口の上の方に穴があるみたい。ミツバ、辛いかも知れないけど、ちょっと手伝ってくれる?」
ミツバはだるそうな体を起こした。
「あの穴を見てみるから、ちょっと肩車して」
「こんなにフラフラしていて、出来るかな〜」
「それじゃぁ、どうするの? ミツバがこのユキの上に乗る?」
「分かったよ。それはあり得ないから、仕方がないか」
ユキは、ミツバの肩にのり、両手でその穴を広げ始めた。二人共泥まみれになりながら、作業を続け、仕舞には、穴から嵐の後の明るい朝日が十分に入るようになった。
「ミツバ、これで助かる。いい? 今度は、このユキがミツバの肩の上で立ち上がるから、しっかりしててよ。そうすれば、穴から外に出られるから」
ユキは、穴から頭を突き出し、外側にあった根っこの一部につかまって、外に這い出た。その直後に、洞窟の中でドスンという音がした。ミツバが倒れたようだった。
「ミツバ、大丈夫? すぐに助けを呼んでくるから、ちょっとだけ待ってて!」
ユキは無い力を振り絞って走り出そうとした。と言っても、実際には、ヨタヨタ歩きをしているような具合だった。やっと一番近くの家にたどり着き、警察、ミツバの両親、そして、ユキの母に連絡をしてもらった。
人々が駆けつけた時、ミツバはかなり弱っていたので、救急車で病院に運ばれた。ユキは、家でシャワーを浴び、着替えてからすぐにミツバの見舞いに行った。
「それで、せっかくユキとの秘密のお城が出来たと思ったら、残念だなぁ。もしかして、あの時、私がユキにせまった事を神様にでも叱られたのかなぁ?」
「がっかりしないで。いつかきっと、二人の秘密のお城を持とうよ。それに、もし、どっちか一人であの中に取り残されていたとしたら、とんでもないことになってたはず。夕べは、二人だから生きて帰ってこれたんじゃない。二人だったから。そして、これからも」



