夏休みが終わり、新学期が始まった。ユキは、ミツバのおかげもあり、とりあえず学校にも慣れ、転入当初のようなぎこちなさは無くなっていた。そして、今度はユキがミツバを助けることもあった。数学が苦手なミツバの宿題やテストの準備を手伝ったりした。ユキは特に勉強が好きな訳でも、得意な訳でもなかったが、数学は、考えれば出来ると言っていた。
ある日、ミツバが少し興奮しながらユキに話しかけた。
「それで、ユキ、野球部の内野君が私に話があるって言うんだけど、何かな? ひょっとして、内野君、私の事......。でも、私、こんな大作りで不細工だから、そんな事あり得ないよね〜」
「分からないよ。そうかもよ」
ミツバは、内野君と会った日の帰り、完全にしょんぼりしていた。
「ミツバ、どうしたの? 内野君と会ったんでしょ?」
ミツバはすぐには答えずに、「は〜」とため息をついてからぼそっと言った。
「それが〜、内野君、実は、ユキと付き合いたいんだって。私がユキの一番の仲良しだから、私に聞いたんだって」
今度は、ユキが黙ってしまった。
「ユキはいいな。可愛いし、女の子らしくて。ちょっと変わってはいるけど、それも魅力なのかな。それに比べ、私は......」
ユキはどうやって慰めたらいいのか分からなかった。大きなミツバの肩をさすってあげるのが精一杯だった。それでも、言うべきことはという感じで言った。
「ミツバ、このユキは内野君のことは何とも思っていないし、付き合う気もないよ」
ユキは、その後も何度か男子に誘われた。でも、必ず、即座に断ってしまう。
「ユキ、最近、何回も男の子に誘われているんでしょ? 付き合わないの? ひょっとして、私に気を使ってる?」
「全然。このユキ、興味が無いだけ」
さて、秋の文化祭が近づくと、二人のクラスでは劇をすることになった。まず、投票でロミオとジュリエットを演じることに決めた。そして、誰もが、ジュリエットになるのは、可愛い四つばだと思っていた。そのため、何人もの男子が、「俺がロミオになる」と言い出した。さて、四つばが誰を相手に選ぶのかと思いきや、四つばはこう言った。
「私は、監督になる。みんな、私の言うことは全て聞くように」
これには一同驚いた。そして、それじゃぁジュリエットは誰? と思い始めた時に四つばが発表した。
「ジュリエットは、ミツバ」
これも、意外だったが、ミツバは少し照れているようでもあった。ところが、これを聞いて、ロミオ役になりたがっていた男子たちは全員降りてしまった。この時のミツバの表情は救いようがないほど悲しそうだった。
その時、今まで目立つような事はしていなかったユキが前に進み出て、やっとの思いでという感じで言った。
「こ、このユキがロミオになる」
それを聞いた全員がユキを見つめた。中でも、一番驚いたのはミツバだった。あの引っ込み思案のユキがこんな事を言い出すなんて。それに、よりにもよって、ミツバより背が低くて、情けなく見えるユキがロミオになるとは信じられなかった。ユキはユキで、言ってしまった途端に後悔した。こんな事、出来る訳がないと。級友たちも、どうなることかと気になって仕方がなかった。
監督の四つばも、初めは、これで無事に劇が出来るだろうかと不安に思った。しかし、自分が出演する訳ではないし、兎に角キャストを操る事がしたかったので気にしないことにした。それに、内心、ユキとミツバの関係にも興味があった。果たして、この二人がどういう演技をするのだろうかと好奇心が膨らんだ。
さて、ユキとミツバは、どうやってこの事態を切り抜けようか、必死に考え始めた。
「ユキ、まったく、ロミオになるなんて言っちゃって、どうするの? 劇とかやったことあるの?」
「ん〜ん。でも、あの時、黙っている訳にはいかなかったから」
「分かってるよ。私に同情したんでしょ。それで、それ自体は、涙が出るほど嬉しかったんだけど......」
「じゃ、良かった。嫌かと思った」
「でもー、ユキをロミオにするのは、ちょっと酷かと思って。まぁ......、今更辞めるわけにはいかなし......。やるしかないよね。頑張ろう!」
まず、二人の外見をどうにかしようと言うことで、ユキは厚底靴と大きめの服を調達し、肩パッドを入れた。
「ミツバ、このユキの髪の毛、バッサリ切ってくれる?」
「えっ? 劇の為にそんなことまでするの?」
「もちろん。全然平気だよ。それに、ミツバの母ちゃんの化粧品、貸してもらえるかな? 男っぽいメークをしてみる」
反対に、ミツバは、出来るだけ小さく見えるような服装とかつらを用意して、女らしいメークをした。
「それで、声に関して言えば、ユキはもともと低音だし、私はどちらかと言えば高いから、そのままでいいよね。さて、これから、セリフを覚える時に、話し方だけ注意して、十分に練習しよう」
いつもおどおどしているユキだが、劇の時だけは堂々と話すようにミツバが何回も練習させた。ミツバも女性らしい話し方を徹底的に練習した。
監督の四つばは、練習の間ずっと、ユキとミツバがお互いに、熱心に助け合っているのを見て、ある種の嫉妬を覚えた。こうやってお互いに助け合えるような関係が羨ましかった。自分にはそういう相手がいないという事がよく分かった。
ところで、劇の途中にはキスシーンがあるが、中学生なので実際にキスをする訳ではない。横向きに向かい合っている二人が、抱き合いながら、体を回転させて、客席から見るとキスをしているように見せるという演出であった。このシーンの練習の最中、四つばが注文をつけた。
「ロミオとジュリエット、キスする時に、もっと感情を込めて!」
ユキとミツバは家に帰ってから、このシーンを何回も練習した。
「ユキ、体を回す時に、右腕で私の頭を掴むようにして、口と口がうまい位置になるようにしてみて」
ユキはなるべくその様にしてみた。ただ、すべてがミツバの言った通りでは無かったようだ。
「ユキ! 今、唇が......」
ユキは、慌ててミツバから体を離しながら言った。
「そ、それが......、知らないうちに〜、思わずミツバに惹きつけられちゃったみたい。分からないけど、自然とそうなっちゃったみたい。嫌だった?」
ミツバは、まだ信じられないような顔をしていたが、少しして、はにかみながら言った。
「それで〜、もっ」
「もっ?」
「もっとやって」
さて、本番の日、異色の配役と言うことで評判となり、客席は満席で、立ち見の人々もいた。ユキもミツバも始めての経験だし、お世辞にも演劇がうまいとは言えなかった。それでも、観客はユキとミツバの間に通じる深い繋がりを感じたようで、幕が閉じた時には大きな拍手が起こった。
ある日、ミツバが少し興奮しながらユキに話しかけた。
「それで、ユキ、野球部の内野君が私に話があるって言うんだけど、何かな? ひょっとして、内野君、私の事......。でも、私、こんな大作りで不細工だから、そんな事あり得ないよね〜」
「分からないよ。そうかもよ」
ミツバは、内野君と会った日の帰り、完全にしょんぼりしていた。
「ミツバ、どうしたの? 内野君と会ったんでしょ?」
ミツバはすぐには答えずに、「は〜」とため息をついてからぼそっと言った。
「それが〜、内野君、実は、ユキと付き合いたいんだって。私がユキの一番の仲良しだから、私に聞いたんだって」
今度は、ユキが黙ってしまった。
「ユキはいいな。可愛いし、女の子らしくて。ちょっと変わってはいるけど、それも魅力なのかな。それに比べ、私は......」
ユキはどうやって慰めたらいいのか分からなかった。大きなミツバの肩をさすってあげるのが精一杯だった。それでも、言うべきことはという感じで言った。
「ミツバ、このユキは内野君のことは何とも思っていないし、付き合う気もないよ」
ユキは、その後も何度か男子に誘われた。でも、必ず、即座に断ってしまう。
「ユキ、最近、何回も男の子に誘われているんでしょ? 付き合わないの? ひょっとして、私に気を使ってる?」
「全然。このユキ、興味が無いだけ」
さて、秋の文化祭が近づくと、二人のクラスでは劇をすることになった。まず、投票でロミオとジュリエットを演じることに決めた。そして、誰もが、ジュリエットになるのは、可愛い四つばだと思っていた。そのため、何人もの男子が、「俺がロミオになる」と言い出した。さて、四つばが誰を相手に選ぶのかと思いきや、四つばはこう言った。
「私は、監督になる。みんな、私の言うことは全て聞くように」
これには一同驚いた。そして、それじゃぁジュリエットは誰? と思い始めた時に四つばが発表した。
「ジュリエットは、ミツバ」
これも、意外だったが、ミツバは少し照れているようでもあった。ところが、これを聞いて、ロミオ役になりたがっていた男子たちは全員降りてしまった。この時のミツバの表情は救いようがないほど悲しそうだった。
その時、今まで目立つような事はしていなかったユキが前に進み出て、やっとの思いでという感じで言った。
「こ、このユキがロミオになる」
それを聞いた全員がユキを見つめた。中でも、一番驚いたのはミツバだった。あの引っ込み思案のユキがこんな事を言い出すなんて。それに、よりにもよって、ミツバより背が低くて、情けなく見えるユキがロミオになるとは信じられなかった。ユキはユキで、言ってしまった途端に後悔した。こんな事、出来る訳がないと。級友たちも、どうなることかと気になって仕方がなかった。
監督の四つばも、初めは、これで無事に劇が出来るだろうかと不安に思った。しかし、自分が出演する訳ではないし、兎に角キャストを操る事がしたかったので気にしないことにした。それに、内心、ユキとミツバの関係にも興味があった。果たして、この二人がどういう演技をするのだろうかと好奇心が膨らんだ。
さて、ユキとミツバは、どうやってこの事態を切り抜けようか、必死に考え始めた。
「ユキ、まったく、ロミオになるなんて言っちゃって、どうするの? 劇とかやったことあるの?」
「ん〜ん。でも、あの時、黙っている訳にはいかなかったから」
「分かってるよ。私に同情したんでしょ。それで、それ自体は、涙が出るほど嬉しかったんだけど......」
「じゃ、良かった。嫌かと思った」
「でもー、ユキをロミオにするのは、ちょっと酷かと思って。まぁ......、今更辞めるわけにはいかなし......。やるしかないよね。頑張ろう!」
まず、二人の外見をどうにかしようと言うことで、ユキは厚底靴と大きめの服を調達し、肩パッドを入れた。
「ミツバ、このユキの髪の毛、バッサリ切ってくれる?」
「えっ? 劇の為にそんなことまでするの?」
「もちろん。全然平気だよ。それに、ミツバの母ちゃんの化粧品、貸してもらえるかな? 男っぽいメークをしてみる」
反対に、ミツバは、出来るだけ小さく見えるような服装とかつらを用意して、女らしいメークをした。
「それで、声に関して言えば、ユキはもともと低音だし、私はどちらかと言えば高いから、そのままでいいよね。さて、これから、セリフを覚える時に、話し方だけ注意して、十分に練習しよう」
いつもおどおどしているユキだが、劇の時だけは堂々と話すようにミツバが何回も練習させた。ミツバも女性らしい話し方を徹底的に練習した。
監督の四つばは、練習の間ずっと、ユキとミツバがお互いに、熱心に助け合っているのを見て、ある種の嫉妬を覚えた。こうやってお互いに助け合えるような関係が羨ましかった。自分にはそういう相手がいないという事がよく分かった。
ところで、劇の途中にはキスシーンがあるが、中学生なので実際にキスをする訳ではない。横向きに向かい合っている二人が、抱き合いながら、体を回転させて、客席から見るとキスをしているように見せるという演出であった。このシーンの練習の最中、四つばが注文をつけた。
「ロミオとジュリエット、キスする時に、もっと感情を込めて!」
ユキとミツバは家に帰ってから、このシーンを何回も練習した。
「ユキ、体を回す時に、右腕で私の頭を掴むようにして、口と口がうまい位置になるようにしてみて」
ユキはなるべくその様にしてみた。ただ、すべてがミツバの言った通りでは無かったようだ。
「ユキ! 今、唇が......」
ユキは、慌ててミツバから体を離しながら言った。
「そ、それが......、知らないうちに〜、思わずミツバに惹きつけられちゃったみたい。分からないけど、自然とそうなっちゃったみたい。嫌だった?」
ミツバは、まだ信じられないような顔をしていたが、少しして、はにかみながら言った。
「それで〜、もっ」
「もっ?」
「もっとやって」
さて、本番の日、異色の配役と言うことで評判となり、客席は満席で、立ち見の人々もいた。ユキもミツバも始めての経験だし、お世辞にも演劇がうまいとは言えなかった。それでも、観客はユキとミツバの間に通じる深い繋がりを感じたようで、幕が閉じた時には大きな拍手が起こった。



