勇気を出して♠このユキとまれ

翌日、ゆうきが制服を着て、少しは整った髪の毛で登校すると、明らかに周りの視線が違った。前日にからかった男子でさえ、好奇心を示しているように見えた。ただ、ゆうきはと言えば、相変わらずうつむき気味で一言も喋らずにいた。休み時間はいつも、つばめのそばに寄ってきた。

ゆうきは、下校時刻にもさっさと、つばめの所に着て一緒に帰るつもりでいるようだった。
「ゆうき、悪いけど、私、今日部活なんだ」
ゆうきはがっかりしたような顔をしたが、急に何か思いついたように言った。
「あの〜、俺、じゃなくて、この〜、ゆうき、部活見に行っていい?」

つばめは驚いた。
「そ......、それは、いいけど。まさか柔道やる気?」
「いや、その......、ひょっとして、マネージャーとか出来ないかなと思って。つばめのそばに居ないと......」
「分かったよ。聞いてみよう」

そんな訳で、ゆうきは、柔道部のマネージャーになり、つばめと一緒に行動出来ることになった。それからは、部活の後も、いつも一緒に帰るようになった。

「ねぇ、ゆうき」
「ん?」
「ゆうきって言う名前、優しそうで可愛いんだけど、言おうとすると、なんだか、ちょっと間が抜けちゃうから、いっそのことユキって呼んでいいかな?」
「うん。好きなようにして」

「それで、私のことはね、別に好きなわけじゃないんだけど、よく知ってる子はみんなミツバって呼ぶんだ。もう聞いてるよね。それはね、小学校に入った時だけど、驚いたことに、同じクラスにもう一人、つばめって言う名前の子がいたんだよ。『四方 燕』って言うんだけど。ほら、同じクラスの一番前の席に座っている、あの子。それで、その子は、四つば、私はミツバと呼ばれるようになった訳」
「『三つ葉』もちょっと......」

「えっ? それで、悔しいことに、四つばは可愛くて、賢いときてる。男どもには『幸運をもたらす 四つばのクローバー』なんてもてはやされているから、たまったもんじゃない。私だって、長いこと四つばと比べられなかったら、もっとおしとやかで可愛い女の子になってたかも知れないよ」
「でも、ミツバは今のままでいいよ。ミツバに頼れなかったら、お、この、ユキどうなっていたか分からない」

柔道部は、週末もよく試合があるので、二人は週末も一緒に過ごすことが多かった。それ以外、例えばミツバが一人で道場に通う時とかは、ユキはもっぱら一人で家にこもっていた。それから暫くした頃、ユキが学校を休んだ事があった。まだ携帯電話のない時代だったので、心配したミツバは放課後にユキの家に寄ってみた。

ユキの母親が出てきて、ミツバを台所に通すとユキを呼んできた。ミツバはユキに問いかけた。
「ユキ、今日、どうしたの?」
「ちょっと具合が悪かったんだ。あまり、体が丈夫じゃないから、時々そうなる。でも、もう大丈夫だと思う。明日は学校行くから」
「あー良かった。ちょっと心配したよ」

この時、ユキの母親が二人に言った。
「これから夕飯の支度をするから、二人共、ゆうきの部屋でゆっくりしていったら?」
ユキの部屋に入ると、ミツバは好奇心満々で中を見回した。

「なんだか女の子の部屋とは思えないね。まぁ、引っ越して来てそんなに経ってないからかな? それで、ここらの紙の飛行機はどうしたの?」
「あ〜、このユキが作った」
「ふ〜ん。面白い趣味だね。お人形じゃなくて、飛行機か......」
「ほんとの旅客機の寸法を調べて作ったスケールモデルだよ。一機作るのにも、すごく時間がかかるんだ」

「やっぱり、随分変わってるな、ユキは。それで、これ、引っ越しの時は、相当大事に持ってきたんだろうね」
「ほんとは、もっとあったんだけど、ここに引っ越してくる前、むしゃくしゃしていて、幾つも叩き壊したりしたんだ」
「へ〜、ユキ、おとなしそうだけど、そんな事もあるんだ。それで、今度は、私の家に遊びにおいでよ」

一学期も終わりに近づき、体育の時間に水泳をする時期になった。ミツバは楽しみにしていたのだが、その時になってみると、ユキが見学をすることに気がついた。後で、ミツバがユキに聞いた。
「ユキ、どうして泳がないの?」
「あー、その〜、水が怖くて」
「ふ〜ん、そうだったんだ。暑い時は気持ちがいいんだけどね。怖いんじゃ仕方ないよね」

夏休みに入ると、柔道部の練習のない日は、ユキがミツバの家に行くことが多くなった。ミツバの一番の趣味はと言うと、少女マンガだった。そして、丁度その頃、ミツバは自分でもマンガを描き始めていた。ところが、どうも思うようには描けない事に気がついていた。

「ミツバのマンガ、話はいいんだけど、絵が〜、ちょっとね」
「確かに、私、力仕事には自信があるんだけど、細かい事は苦手なんだな」
「じゃあ、このユキが少し手伝ってあげるよ」
「それは助かる。ユキは器用だから、難しい所を描いてもらおうかな」

そんな訳で、二人は一緒に作品を作ることにした。話の主人公は、リリと言う、地球に一番近い惑星から来た宇宙人の父と人間の母の間に生まれた女の子。リリの父と母は、初めは仲が良かったのだが、生まれの違いからだんだんと衝突するようになる。そして、宇宙人の父の中には、宇宙規模の凶暴性が潜んでいて、気に食わないことがあるとそれが爆発する。

母は、しばしばその暴力の対照となった。リリはその間に入って悩んだ。リリ自身はと言えば、普通はおとなしいが、怒ると、やはり体内に宿る父の凶暴性が現れる。それで、次第に家の外で問題を起こすようになる、と言った話だった。ユキとミツバは、その夏休み中をかけて、その話の第一巻を仕上げた。