清掃の時間からはじまる推し活物語 -Season2.5-

夕飯と風呂をすませ、自室で眠くなるまで矢野先輩と電話で話す、至福の時間。

「八神、オレたちって付き合ってるんだよな?」

先輩から、唐突にそう聞かれた。

「俺はそのつもりですけど。」

「じゃあ、いつまでも『先輩』って呼ぶのやめない?」

…実は、俺も同じことを考えていたのだが、「先輩」以外になんて呼んだらいいかわからず、今に至る。

「じゃあ…、矢野さん?」

「んー、ピンと来ないな。」

「子供の頃のあだ名はなんでした?」

「ふつーに『一織』って呼ばれてたから、あだ名はなかったよ。あ、『いっちゃん』って呼ぶ親戚はいたかな。」

「いっちゃん!かわいいですね。
いっちゃん!」

「でも、お前にそう呼ばれるの、しっくりこない。」

「じゃあ、一体なんて呼べばいいんですか?!」

「ダーリン、とかハニーとか?」

「別にいいですけど、絶対無視しないでくださいよ?
てか、先輩の方こそ、俺のこと『八神』って呼ぶのやめませんか?」

「んー、八神は八神なんだよなー。
『ヤガミ』っていう愛称みたいな感覚。」

「ええぇ…。」
不服そうな声を出したら、先輩はちょっと考えて、
「じゃあ、どっちで呼ばれた方がキュンとするか、2択で選んで。」
と提案してくれた。

「まず選択肢1な。
『圭吾、おやすみ。』」

初めて下の名前で呼ばれて、顔がニヤついてしまった。
「いいですねぇ(笑)」

「次、選択肢2。
『八神、愛してるよ。』」

「…選ばせる気ないじゃないですか!」

「どっちがキュンときた?」

「選択肢2にも、下の名前を入れてくださいよ!」

「わがままだな。」

「公正な検証をしてほしいだけです!」


「…圭吾、愛してるよ。」

くぅぅぅ!!!!
俺は枕に顔を埋めて、のたうち回った。

「キュンどころか、危うく昇天しかけました!」

「圭吾がそう言うなら、これからは圭吾って呼ぶわ。」

「切り替え早ッ」

俺のことを下の名前で呼ぶ人はたくさんいるのに、大好きな人から呼ばれるとこんなにドキドキするものだとは。

俺も、先輩のことキュンとさせることはできるのだろうか。

「一織さん、俺も愛してます。」

「…やば。
もう一回言って。」

「一織さんのこと、宇宙一愛してます。」

今まで、憧れと尊敬を込めて「先輩」って呼んでいたけれど、これからは愛情と親しみも込めて「一織さん」と呼びたい。

しばらくは慣れなくてくすぐったいだろうけれど、いつか自然に呼べる日が来るのかな。