BLワールドから落っこちた俺が恋するテッパン!

ズルズルと力なく歩く脚。自分の身体なのにひどく重たい。
俺の目からは、止まることを忘れたような大粒の雫が、熱い道を描いて落ちていく。

もう何もかもが嫌なんだ。

なあ、なんで俺はこんななの?
何か悪いことしたか?
普通にこの世界で生きてるだけだよ?

「もう……いっそ殺してくれ。頼む。そうしてくれ。」

空を仰ぐ。

「捨てられるのはもうたくさんだ。」



「死ぬ前に一度だけ、他の世界に行ってみませんか?」




――え?誰?
キョロキョロと見渡し、もう一度空を見上げる。

「もしかして……空?いやいや、まさかぁ。」

「御明答。君たちをいつも見ている空でございます。とりあえず他の世界に行っちゃいなさいよ。」

「そんな軽い感じで言わないでくれる?」

「もう一度顔を上げたら、見えてる世界が全てじゃないって気づくかもしれない。」

「俺はこの世界しかないんだ。もう全部が嫌なんだ。」

「うん。だから今すぐ落っことしてあげる。」


クラッ……

大きな目眩がした。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


ドサッ!!

「いってぇ!!」
夜道にオッサンの声が響いた。

「痛いのは俺だよオッサン。いててて……なんだよ、もう。」
「それはこっちのセリフだ。クソガキ、早くどきやがれ!」

俺の下から声が聞こえる。

うわ!俺、誰かの上に落っこちたみたいだ。最悪だ。落とす場所くらい気を使えよ、あの空。

「――兄貴!大丈夫っすか!?」
「おいコラ、クソガキ!てめー何者だ!?」

わっと集まってきた輩共が、俺の腕を乱暴に引っ張りあげ、地面に投げ捨てる。

「いてっ!何すんだ、コラ。」
「あ?やんのか?」
「上等だよ。かかってこいよ、オッサン!」

ふふん。
俺はBLワールドの“ヤンチャ受け様”だぞ?すぐにスパダリが駆けつける。そしたらお前ら全員コテンパン、ジ・エンド。

どんなイケメンが来るのかなー。ワクワクするぜ。

「何ニヤニヤしてんだよ!」

――ゴッ!!
目の前にキラキラ星が飛んだ。

「……ほっぺ、痛い。」

「あ?頭イカれてんのか?」
「多分もう死にたいんじゃね?」
「なる。優しい俺たちが叶えてやるよ。」

「え。ちょっ……ちょっと待って。イケメンが少し出遅れてるみたいなんで。」

「は?ホントのバカだぞ、コイツ。」
「可哀想になぁ。俺らが目を覚まさせてやるから安心しろ。」
「次どこやる?反対の頬いっとくか。せーの!」

――ガッ!!
キラキラ星とキラキラ星がぶつかり合ってる。

……じゃなくて、ヤバい。これマジか。
しゃーないな。

立ち上がり、両手でカモン。輩を煽る。
「久しぶりに腕鳴らし!オラオラ、オッサン共来いよ!」

「おい、全員来い!子ネズミ退治だぞー。」
「あ、いいんすかぁ?」
「ストレス溜まってんすよねー」

――嘘だろ。超~湧いてきたじゃん。
これ、間違いなく俺、病院送りじゃね?

いや、待て。それよりもさ。

イケメンはいつ来るんだ!?
大切な出会いのシーンに遅刻するイケメンとか聞いてねえ!!
しかも俺の役割だと、盛り上がった頃にそいつには捨てられるんだよな。納得いかねぇ……。

「あーもういいや!全員来いやぁ!」

「そうこなくっちゃ!」

四方八方からオッサン共が俺に群がってくる。
俺とオッサン山盛りはビジュ的にイケてない。こんなの俺、無理。

いつも助けられる側なんで、破壊力はかなりライトな設定。でも危ない怪我はしない程度の身体能力は備わってんだぜ。

すいっ、すいっ、とかわしながら、オッサンの膝からトトンッと駆け上がり、輩共を飛び越える。それでも多少はヒットしちゃってまあまあ痛い。

「うわ、なんだコイツ!」
「すばしっこい奴だ。捕まえて押さえつけろ!」

力技はやめて!
俺様は“受け”なんで、力では勝てないんだ。大体、ねじ伏せられる展開っす。だからやめて!

まんまと捕獲され、地面に伏せて押さえつけられてしまった。

あーー……終わった。
この物語は一体何を伝えようとしてるのか。俺様、序盤で死ぬじゃんか。今までで一番ひどいな。

ん?――誰かいる。

暗闇に目を凝らす。
じっと見つめる先には、ぼんやりと長身の男が見えている。

イケメンか、モブか。

「――!!」

来た!イケメンだ!それもかなりの!!

「おいコラ!そこのイケメン!遅刻にも程があるぞ!責任取りやがれ!」

「えっ……俺のこと?」

「え、じゃねえよ!早く何とかしろよ!お前なんか指先でちょちょいだろうが!!」

「あー……そうだな、仕方ないな。」

ダボッとしたシャツの袖をめくり上げるイケメンに、輩共がザワつく。
俺もトゥンクの準備で胸がザワつく。

「な、なんだ、てめー!仲間か!?」
「てめぇも一緒に躾してやるよ!」

ふーんだ。バカ共め。ピンチに現れるイケメンは無敗って相場が決まってんだよ。
しつけられるのはお前らな、バーカバーカ。


――Pi。

ピ、て何?それ何してんの。
は?スマホ?
指一本ってそういうことじゃないのだが?


暗闇で睨み合う俺たちに、そいつの落ち着いた声が聞こえてくる。

「もしもし、喧嘩でーす。場所はー……」





――通報……?マジか。

「何してんだよ!!」
俺とオッサン共の声が綺麗にハモった。