エディさんがアンプの裏に回り屈み込んだ――。すぐさま立ち上がると、その腕の中には、クリスタル仕様のエレキハープ。
「え、何あの楽器……」
「ハープ? あんなの初めて見た!」
絶妙なタイミングで現れる彼のパートナー。こだわり抜いた演出に、観客席後方からどよめきが止まらない。
エディさんが弦を爪弾く。柔らかなハープの音色が、エリサちゃんのシンセサイザーが放つグラスハープの音色と重なる。
観客席からは、早くも感嘆の声が溢れ出す。
「綺麗な音……」
ハープの音色に続き、ドラムのキリト君がリムを弾く乾いた音を、小気味よく刻む。
夜空の星々が瞬くような煌びやかな旋律が会場を包み、白いスポットライトが徐々にステージ中央に集まっていく。
梨歩はその光を辿るように、ステージ中央へと歩を進めた。握ったマイクに力が入っているのが、ここからでもわかる。
(梨歩、頑張れ)
アサトさんのベースが加わり、繊細なメロディーはより一層重厚なサウンドへと変容する。エディさんのエレキハープは、繊細な音色から徐々にグルーヴィーな電子音を響かせ、ミナト君のエレキギターのチョーキング音と重なり合う。
梨歩はマイクに意識を集中させるように佇んでいる。イントロが終わる頃。
Dreamin’ 思い出して
埃まみれの夢だとしても
その先に望んだ未来を描けばいい
踊るスポットライトの傍らに設置されたキャノン砲から、無数の銀テープが色彩を帯びて放たれる。
見上げた空の広大さに気付いたら
この世界に楽園を見たような気がした
時折、視線を交わす梨歩とエディさん。二人の視線が重なり合う度に、演出に熱が込められる。
晴れ渡る空に青い薔薇を想う
理想・現実・夢・幻
願いは一つ「叶えたい」
間もなくサビに差し掛かる。エディさんは華麗に低音から高音へと滑らかな滑奏で旋律を繋いでいく。
★★★★
Believe in 咲き誇る奇跡の花
どんな困難があろうと
自分にだけは負けないで
Blue sky 空に誓うよ
あなたが今日 踏みしめている大地の温もりは
今を乗り越えた証
今日まで生き抜いた証
オーケストラサウンドにエレキピアノの音が重なる。透明感溢れる旋律を紡ぎ出すシンセサイザーを自在に操るのは、ELLIEことエリサちゃんだ。
朝日の向こうに広がる景色
灼熱の太陽に
ありったけの夢 叫びたい気分だ
実現不可能でも 恐れずに
戸惑い捨てて 小さな一歩
踏み出してみようよ
サビ直前。グランドピアノを思わせる澄んだ音色が夜の薔薇園に響き渡る。ベースは大地を揺さぶるように力強くメロディー全体を支え、ドラムは時折静寂を含んだビートを緩やかに刻む。曲の途中にもかかわらず、絶妙なタイミングでベースからヴァイオリンに持ち替えたアサトさんは、伸びやかで華麗な主旋律を奏で、情熱的な音色で空気を震わせていく。
Blessin’ I love you
魂が震える 僕らの旋律奏でよう
空にとけてく 泡沫のように儚くとも
Blue time 祝福の時
いつか必ず咲くと信じた花は
どんな花より美しく
明日を彩る道標に
青く染まったステージに、白い光が一筋差し込む。光はステージ中央に立つ梨歩から徐々に末広がり、やがてバンド全体を包むようにゆっくりと照らし出していく。
もう梨歩の顔に緊張はなかった。
憧れのアーティストを追いかけていた少女ではない。
今、彼女自身がこの舞台を作る一人の歌い手になっている。
Amazing! 本当の願い
気付かないフリ もうやめよう
大丈夫
Blue rose 夢は叶うよ
不可能だって越えてみせる
信じ続けよう
夢 叶うまで
ヴァイオリンが高くうねり、シンセベースの重低音が重なる。激しいドラムが楽曲に鋭い抑揚を刻み、会場の熱を一気に押し上げていく。
Believe in 咲き誇る奇跡の花
どんな困難があろうと
今を生きて 「あなた」を生き抜いて
Blue heaven 空に誓った
夢の続きを描いていこう
諦めないで
命ある限り 夢は終わらないから
転調――さっきよりも高くパワフルに、梨歩はラストに向けて全身全霊を込めるように――熱く熱く歌い上げる。
ひらひらと舞い降りる色とりどりの花弁。ステージに降り積もるカラフルな花は雪のように、舞台面を鮮やかに彩っていく。



