ブルーヘヴンの彼方に【改稿版】

 照明が再びステージを照らし始めた。
 五つのシルエット。仄暗いステージに降り立った五人の姿が、静かにその時を待っている。

 ドラムのカウントを刻む音が、開演を合図した。同時にスポットライトがステージ中央に立った人物を照らし出す。
 
 いよいよ、始まるんだ。

「ねえ、若葉。ナマEDENだよ。ヤバい、あたし緊張して……チビりそうなんだけど。どうしよう」
「トイレ行っとく?」
「ダメ! 漏らしてでもこれだけは見る!」
「それはさすがに……EDENもドン引くから。やめた方がいいわ」
「じゃあ漏らさないように気を付ける!」
「うん、是非そうして」

 緊張感と興奮から、梨歩のテンションがおかしくなっている。

「あれ、エディ?」
 梨歩はステージ上のエディさんの存在に気付いた。仄暗い周囲のぼんやりとした常夜灯のような僅かな光が、その存在を曖昧にしていた。

「梨歩、始まるよ」
 エディさんがマイクを握りしめた。

「あ、ほら。やっぱりエディじゃん。何でエディが? まさか、EDENの前座とか?」
 梨歩は不思議そうにステージのエディさんに視線を向けている。

 エリサちゃんが軽やかなステップを踏むように、滑らかにストリングスのサウンドを響かせる。その後を追うように、アサトさんのベースが音に厚みを加え、ミナト君のギターソロでイントロが完成――。

 ほんの少し、時が止まったかのような静寂が会場を包み込む。

 一瞬にして咲いたスポットライトの花――迸(ほとばし)る火花のように彼らを映し出す。

「ねえ、あれ。もしや……モデルのELLIEじゃない?」
「わ、本当だ! ELLIEだ!」
「何だ、このバンド!」

 観客席からは、次々と歓声の嵐がこだまする。
「す……すごい!」

 最前列中央の席で、私と梨歩は初めてのライブに夢中で魅入(みい)る。

「やば、鼻血出そう……」
 梨歩は会場の気迫に押され、卒倒しそうになっている。

「だ、大丈夫?」
「うん、平気。この席は……譲れない」
「平気って……。気分悪いなら無理しなくてもいいのよ」
「ダメ、ここで見たいの」
「そう……そりゃそうよね」

 ステージ上で初めて聴く彼の歌声。それは、どこか儚げに掠(かす)れる独特の声質。やや高めの、ハスキーだけど透明感のある不思議な声。うまく言い表せないけど、ガラス細工のように繊細で、蒼天(そうてん)を突くように力強い。異なる声質を絶妙に織り交えた魅惑の声。

 だけど、梨歩はまだ知らない。この声の主が何者なのかを。

 バックスクリーン上に映し出されたその文字が、踊るように次第に形を変えていく。

 そして、ある文字が浮かび上がった。