ブルーヘヴンの彼方に【改稿版】

「アサ君のお母さんと、キリトたちのお父さんが姉弟なんだ。それぞれ国際結婚してて、アサ君はアメリカ、キリトとミナトはロシアにルーツがある」
「へえ……」
「僕らは親同士の縁で知り合って、それ以来、家族ぐるみの付き合い。なかなか濃いメンツでしょ」
「う、うん」
 国際色豊かに見えるけれど、ここにいるほぼ全員、日本生まれの日本育ちだ。
 アサ君を除けば、もう一方の国の言葉はおろか、英語すら満足に話せない。

 だからたまに「見かけ倒し」なんて言われたりもする。
 ハーフだからって、外国語が話せるとは限らない。
 見た目だけで勝手に期待されるのも、僕らにはありがちな悩みだ。

「ねえ、そこの女。あんた誰?」
 しまった。
 もう一人いた。

「……エリサ。いたなら挨拶しろよ」
 エリサは僕を完全に無視し、そのまま若葉ちゃんの方へ向かった。
「こ、こんにちは」
「ねぇ、あんた。兄貴の女?」
「はい?」
 唐突すぎる。

「へえ。もっと派手な女連れてくるかと思ったけど」
「キャッ!」
 次の瞬間、エリサが若葉ちゃんの胸元を遠慮なく覗き込んだ。
「兄貴、素材はいい女捕まえたね」
「エリサ。今、彼女に何した?」
「挨拶」
「ウソつけ」
 胸元を隠すように押さえている若葉ちゃんを見れば、一目瞭然だ。
「ごめん、若葉ちゃん。エリサは僕の妹で……ちょっと性格がひん曲がってて……」
「何さ。ウチ褒めてやってんだよ。ねぇ、若葉。兄貴ひどくない?」
「は、は?」
 あまりの不躾さに、若葉ちゃんは完全に固まっている。
「無視していいよ」
 ああ。
 妹の非礼を、どう詫びればいいものか。

 これでも昔は、寂しがり屋で泣き虫な、可愛い妹だった。
 六歳の頃には、両親が病弱な僕につきっきりになる寂しさから家を飛び出し、危うく事件に巻き込まれかけたことさえある。

 ☆
 あの日。
 僕は、全部自分のせいだと思った。
 両親に止められながらも、僕は警察官や大人たちに混じって妹を探し回った。
 夕暮れ時の路地裏で、知らない男の車に乗せられそうになっていたエリサを見つけた。
 幸い、警察が男を取り押さえた。
 あとで知った話では、その男は誘拐事件の容疑で指名手配されていたらしい。
 帰り道。
『にいに、ごめんなさい』
 泣きながらそう言うエリサの小さな手を、僕はずっと握っていた。
『エリサが寂しい思いをしてるなら、きっと僕のせいだから。全部、僕のせいにしていいよ』
 そんなことを言った僕に。
『にいに?』
『父さんも母さんも、エリサのこと大切に思ってるから。ほら』
 家の前には、両親が待っていた。

『お帰り』
 怒鳴られると思っていた。
 泣かせるかもしれないとも思っていた。
 でも、二人はただ僕たちを抱きしめた。
『心配したんだぞ。でも、無事でよかった』
 父さん。
『エディ、エリサ、オカエリナサイネ。ガンバッタネ。スゴイネ』
 母さん。
 あの時。
 僕はようやく泣けた。
 恐怖でも罪悪感でもなく、ただ安心して。

   ☆

 ――なのに。
「ねぇ。ウチのこと、見たことない?」
「え、ええっと……CanDyのELLIEに似てるかなあ、って」
「本物じゃ、ボケ」
 今じゃ、これだ。