「エディ」
「ん?」
「これ、あたしの書いた詩」
ちゃんと約束通り、書いたんだから。
「よくできました。合格」
「え?」
どゆこと?
何故か二人は、含みのある笑みを浮かべている。
何か企んでる?
気のせいかな。
でも、気になる。
「え、何? どういうこと? 何でエディが……」
「ああ。代わりに出しといてあげようと思って。まだ外出られないでしょ。僕、今日は暇だから投函してくるよ。だから住所だけここに書いて」
エディは無地の封筒を差し出してきた。
「え、でも……そんな、悪いし」
「気を遣うのは梨歩らしくないよ」
「はあ? どういう意味よ」
「そのままだけど」
「キイッ!」
あたしは書き殴るように、封筒へ自宅の住所を記した。
「はい。じゃあ、これでお願いします」
「梨歩」
「何?」
「これ、難読すぎて読めない」
「え? どこが?」
「全部」
何だと?
それはつまり、こういうことか。
「……悪かったわね、字が汚くて」
「あ、わかった?」
エディは、すぐあたしをからかいたがる。
あたしの知っている昔のエディは、もういない。
「冗談だよ。ギリ読めるから安心して」
「いちいち嫌味なやつ。絶対わざとでしょ」
「エディさん、もうそのくらいにして」
「わかったよ」
若葉が止めてくれて、ようやくエディは引き下がった。
*
エディが帰ったあと、あたしは若葉と二人きりになった。
少し気まずさは残っていたけど、さっきまでの蟠りはもうほとんど消えていた。
積もる話もある。
だから、あたしから話を切り出した。
「そういえば、朝日兄ちゃん。三日前に桃ちゃんと久々に来てくれたんだけどさあ。赤ちゃん授かったんだって。戌の日っていうの? 安産祈願してきたみたいなの。ああ、あたしもいよいよおばちゃんかぁ」
朝日兄ちゃんは、一年前に婚約していた同い年の幼なじみ――桃ちゃんこと桃葉ちゃんと、先月結婚したばかり。
この前来てくれたのは、その嬉しい報告のためだった。
「へえ、ダブルでおめでたい話ね。でも、梨歩が叔母さんになるって不思議な感じがするわ」
「でしょ? あたしも年取るわけだわ」
「いや、まだ十代じゃないの」
「ああ、そっか。いくら成人してるとはいえ、あたしまだ十代じゃん。叔母さんじゃなくて、名前呼びさせよっかな? 梨歩姉ちゃんとか。あたし、下にきょうだいいないし」
「私はきょうだい自体いないから、甥っ子や姪っ子は難しいけど……。あ、パパの再婚相手の子が子どもを産んだら、私も叔母さんになるのか」
「え、何? 若葉のお父さん、再婚したの? しかも子どもって……」
え、何それ。
聞いてないし。
あたしが死にかけてた間に、何が起こったの?
「あ、うん。何かややこしいんだけど、私も最近知ったのよ。パパ、十年前に再婚したらしくて。今の奥さんの連れ子と、パパとその奥さんの間に生まれた子がいるんだって」 「十年前……?」
「うん。ママとしては、パパとやり直したかったみたいなんだけどね。私が高校を卒業して、養育費の支払いが終わるタイミングで『大事な話がある』って、パパから初めて聞かされたみたいで。私、パパのことすごく好きだったけど、この時ばかりはびっくりして……嫌いになりそうだったわ」
「そうだったんだ。何か、ごめん。あたしばっか浮かれちゃって」
「いいの。もう済んだことだし。今は寧ろ、スッキリしてるから」
「そっか」
若葉にも、色々あったんだな。
辛いのはあたしだけだと思ってた自分が、恥ずかしい。
「詩、届くかな」
「うん。梨歩なら大丈夫」
「いや、エディ。ちゃんと届けてくれるかなって」
「ああ。それは心配しないで。梨歩をからかってるだけだから」
いつの間にか、ずいぶん距離が近づいていた二人。
あたしの知らない時間が、確かに存在している。
それをすぐに受け入れるのは、まだ少し難しいかもしれない。
それでも。
ただ一つ、今なら言える。
若葉が、エディの彼女になってくれてよかった。
二人には、このままうまくいってほしい。
心からそう思えるようになるまでには、もう少し時間がかかるかもしれないけど。
あたしも、もっと精神的に大人になろう。
きっと、これが本当のスタートなんだ。
止まっていたあたしの時間が、再び動き出した――。
そんな気がした。



