無垢だった頃のエディしか知らないから、ギャップがすごくて思考が追いつかない。
でも、洞察力はすごい。
全部見透かされているみたいで。
もう、ごまかしは効かないんだろうな。
全部話してしまおうか。
でも。
それでスッキリするのは、あたしだけだよね。
「……彼氏が、亡くなったの」
「え!」
やっぱり驚いてる。
そりゃそうだよね。
唐突だったかな。
「梨歩、彼氏いたんだ」
「え、そこ?」
「てっきり僕が若葉ちゃんと現れたから、ヤキモチ焼いて拗ねてるんだと思った」
「ぐっ!」
否定したい。
なのに、何故か否定できない。
断片的とはいえ、エディの洞察はエグい。
でも、ちゃんと言わなきゃ。
「あ、あたし……そんな子どもじゃないし! てか、十五年もすれば彼氏の一人や二人くらいいるわよ!」
「へぇ。二人目の彼氏は?」
「い、いない……けど。もう! 何でそう揚げ足取るかなあ」
「だって、面白いから」
あれ……?
本当に、あのエディ?
「エディ、変わったよね?」
「まあね。十五年もすれば、色々あるしね」
一つしか歳違わないのに。
何故かすごく大人の余裕があるというか……。
何かムカつく。
「ところで、梨歩」
「な、何?」
「で、その亡くなった彼氏と何かあった?」
「べ、別に涼ちゃんとは――」
「りょうちゃん、ね」
「あ……」
やりにくい。
調子狂うなあ。
いくら昔の友達だからって、完全に油断してた。
「まあ、つまり。その……あたしより先に逝っちゃうなんて、全然思わなかったから。いつも当たり前みたいにそばにいて、あたしのこと見てくれてたのに。あたしは、涼ちゃんの些細な変化にも気付いてあげられなかったんだと思うと……」
あたしは、涼ちゃんが描いてくれた似顔絵のキャンバスを手に取った。
「これ、彼が描いたの?」
「うん。美大生でさ。あたし、この繊細な色使いと筆のタッチがすごく好きで。普段はシャイで寡黙なんだけど、絵のことになると人が変わったみたいに饒舌になるの」
さっきまであたしと最後の会話をしていたとは思えないほど、今は涼ちゃんのことを懐かしく感じる。
“今”という時間は、ほんの一瞬で過去になってしまうんだ。
そう思っていたら、エディがあたしを確かめるように訊いた。
「後悔してるの? 彼の変化に気付けなかったこと」
当たり前じゃん。
後悔しかないよ。
何度、後を追いたいと思ったことか。
「あたしのせいで……。あたしが鈍感だったせいで……。涼ちゃん、あたしの前では絶対に弱音吐いたりしなかったから……。あたしが涼ちゃんに甘えすぎてたせいで、涼ちゃんは……辛いのに、あたしに言えなくて……だから――」
気が付けば、あたしは泣いていた。
頬を伝った涙が、キャンバスの中で微笑むあたしの上を滑り落ちていく。
「梨歩」
突然、エディの腕に包まれた。
「え、ちょっ……!」
「かっこいい彼だね」
不意打ちとはいえ、こんなところ若葉に見られたら……ますますややこしくなるじゃない。
「ねえ、エディ。ダメだよ。離して」
「ああ、ごめん」
ようやく解放された。
「昔の梨歩のこと思い出してさ。つい」
子どもの頃の、あたし?
「え、まさかだけど……子どもの頃、今みたいに、その……ギュッてしたの?」
「あれ? 覚えてない?」
覚えてない!
覚えてないよ!
「全く……覚えてない」
「まあ、そりゃそうだよね」
「だって、あたし小さかったし」
「僕も同じくらいの歳だったけどね」
「う……何よ。あたしの記憶力がバグってるって言いたいの?」
「まさか。寧ろ正常だよ」
「は? どういうこと?」
エディはにっこり笑った。
「だって、今のが初だから」
「!?」
か、からかわれた?
「あ、あたしをからかって楽しい?」
「うん。すごく」
「やなやつ」
「何とでも。ていうか……」
エディの表情が、ふっと曇った。
「事情はわかったよ。でも、それと若葉ちゃんを泣かせたことは別だからね」
「うっ……」
返す言葉もない。
続けて、エディはにっこり笑った。
「僕の大事な若葉ちゃんを泣かせた罪は重いよ」
「ひっ!」
ヤバい。
怒ってる……?
怒らせたらヤバいキャラだった?
ど、どうしよう。
「そ、それはごめんってば」
「今から梨歩に罰を与えるね」
「ば、罰?」
罰って、何だろう。
地味に怖い。



