ブルーヘヴンの彼方に【改稿版】


「う……ぅっ」

 あたし、なんてひどい奴なんだろう。
 今、ものすごく……若葉が妬ましい。

 今まで感じたこともないような、真っ黒でドロドロした、ヘドロみたいな感情が渦を巻いている。

 気持ち悪い。
 全部吐き出せば楽になると思ったのに。
 残ったのは、罪悪感と虚無感だけ。

 どこにぶつけたらいい?

 誰に言えば、わかってくれる?

 そんな人、きっといない。

 だって、たった今――。
 唯一無二の親友を、あたし自身が傷つけてしまったのだから。

「うっ……う……!」

 あの二人、どうやって知り合ったの?
 あたしが死んじゃうかもしれないって時に、二人は二人の時間を楽しんで。

 せめて若葉の相手がエディじゃなければ、あたし、こんなに苦しくならなくて済んだのかな。
 そう思うと、余計に腹立たしかった。
 奥手な若葉の恋が実ったなら、めいっぱい祝福するつもりだった。

 でも。
 どうして、よりによって彼なの?
 そして、その瞬間――気付いてしまった。
 完全に、嫉妬だ。

 幼い頃の記憶。
 あれはもしかしたら、あたしの初恋だったのかもしれない。

 初めての友達。
 そう思い込んで、本当の気持ちに蓋をして、気付かないふりをしていたんじゃないか。
 そんな可能性だって、十分にあった。

 今更そんなことを言ってもしょうがないのはわかってる。
 あたしには、涼ちゃんという彼氏がいた。
 涼ちゃんが、大好きだった。
 でも。
 まさか……あんなことになるなんて。

「梨歩」
 お母さんが、布団越しに声をかけてきた。
「……若葉ちゃんに、あなたの危篤を伝えたのは私。でも、まさかエディ君と一緒だとは思わなかったわ」
「え……?」
 何それ。
 お母さんも知らなかったの?

「びっくりしたわよ。十五年くらいぶりかしら。梨歩が退院して以来、ずっと彼と会っていなかったでしょう? お互いどこに住んでいるのかすら知らないまま離れ離れになって。まさか、こんなに近くにいたなんて」
「……でも、何で若葉とエディが――」
 今、一番引っかかっているのは二人の関係だ。
 だいたい想像はつくけど……。

「私もさっき聞いたの。出逢ってまだ日は浅いけど、二人は今、恋人同士だって。もう少し落ち着いたら、梨歩にちゃんと報告しに来る予定だったんですって」
「……そう、なんだ」
 やっぱり、二人は付き合ってるんだ。
 それは、紛れもない事実。
 だとしても、やっぱりあたしは……。

「もう、訳がわからないよ……」
 思い描いていたシチュエーションとは程遠い。
 皮肉にも、親友の恋人として現れた彼に、お礼どころか八つ当たりしてしまうなんて。

 あたし、最低だ。
 もう若葉も、きっと来てくれない。
 あたしは今日、自分の手で一番大切な親友まで失ってしまったんだ。

 全部、自分が蒔いた種。
 気付いた頃には、もう手遅れだけど。
「何で……どうして……」
 悔しい。

 どうして、心穏やかでいられないんだろう。
 どうして、自分のことしか考えられないんだろう。
 二人は、自分たちの時間よりも、あたしを選んで駆けつけてくれたというのに。

 ごめんね、若葉。
 ごめんね、エディ。

 “ごめんね”の言葉が、やけに遠く感じる。

 心の底から申し訳ないと思っている時に限って、すんなり口から出てこないのはどうしてだろう。
 たった一言なのに。
 どうして、こんなにためらってしまうんだろう。