*
「梨歩!」
若葉?
そこに、いるの?
「梨歩ッ! 起きて! 起きてよ!」
「梨歩……」
――誰?
知らない声が、若葉の近くから聞こえる。
でも、この声。 どこかで聞いたことがあるような、懐かしい響きだ。
ああ、眩しい。
徐々に視界が鮮明になっていく。
「梨歩!」
「わ、か……ば……?」
若葉。
やっぱり若葉だ。 あたし、戻ってこられたんだね。
よかった。
「梨歩……?」
あ、この声……さっきの。
知らないはずなのに、どこか懐かしい声の人。
「え……」
嘘でしょ?
まさか。 まさか――?
「エ……ディ?」
どうして、エディが?
「エディさん、どういうこと?」
「……」
エディ、どうして若葉と……一緒にいるの?
何で? 何がどうなってるの?
「……ごめん、若葉ちゃん。実は――」
エディが何かを呟く。それを聞いた若葉が驚いたように目を見開いた。
嫌だ。
すごく気まずい。
何で、よりによってこのタイミングでエディが現れるの……?
「……と、とにかく。梨歩、無事でよかった。私、おばさんから報せを受けて、本当にびっくりして……。それで、彼に。エディさんに――」
「やめて」
「え……」
「やめて。聞きたくない……」
「り、梨歩?」
「……お願い、帰って」
「ちょっと、梨歩。若葉ちゃんたち、遠出先からわざわざ引き返して駆けつけてくれたのよ」
「お母さんは黙ってて!」
「梨歩!」
「いいから! 二人とも帰ってよ!」
嫌だ。
もう嫌だ。
何で、こうなっちゃうの?
「……会いたくない」
こんな形で彼に会いたくなかった。
こんな惨めな姿、彼にだけは見せたくなかったのに。
さっきの夢の続きを、どこかで期待していた。
もし、またエディに会えたなら。
笑って、 「あの時、友達になってくれてありがとう」って伝えるつもりだったのに……。
「ごめんなさいね、二人とも。せっかく来てくれたのに……。梨歩、ちょっと疲れてるみたい。また今度来てもらってもいいかしら?」
お母さん、やめてよ。
「もう来なくっていいってばッ!!」
嫌だ。 嫌だ。 嫌だ。
あたし、今ものすごく惨めじゃん。
あたしの知らない間に、どういうわけか二人の時間は進んでいて。
ずるい。
どうして、あたしばっかりこんな思いしなくちゃいけないの。
「梨歩、一度落ち着きなさい」
「出てって! 出てってよ!」
嫌い。 嫌い。 嫌い。
誰も、あたしの気も知らないで。
何なのよ。
「わかったわ。今日は帰るね、梨歩……」
「驚かせて悪かった。それじゃ、僕も今日はこれで失礼するね。お大事に――」
「病人扱いしないでよ! 好きでこんな躰になったわけじゃないのに……」
ああ、最低だ。
あたし、今……若葉にもエディにも八つ当たりしてる。
でも、抑えられない。
こんなの、いつものあたしじゃない。
「……ごめん。無神経だったね」
違う。
エディは悪くない。
「――もういい。早く……行って」
こんな言い方しかできない自分が、大嫌い。
あたしは二人に背を向けた。
布団越しに、ドアの閉まる音がした。



