眞琴さんに、会社について来てはダメと言われて、僕は駅から引き返した。
途中で魂導科でのことを思い出していた。
あのファイル。
眞琴さんの載ったファイルを渡された時、
僕は天使長に質問をしていた。
「あの、天使長」
「ん?」
「この人、病気なんですか? それとも事故にでも遭うの?」
「まだ若いですよね」
天使長はしばらく黙っていた。
「エイル、これを見ろ」
天使長は手のひらを上に向けてかざした。
そこに蒼く揺らめく炎の姿が映し出された。
「これは魂の火時計。その者の命の灯を映し出したものじゃ」
「よく見るんじゃ」
「この魂の持ち主はまだ若い」
「しかし、この炎は揺らぎ、消えかけている」
エイルはそれを黙って見つめる。
「いいかエイル。人は、心を寄せ合う者、喜びを分かち合う者、それら生きる意味を見失った時……」
「その命は静かに燃え尽きる」
天使長はエイルを見た。
「命とは、寂しさの限界を超えた時に天へ帰ることがある」
・・・・。
それじゃ、この人……。
櫻来 眞琴さんは……。
こんな優しい人が、寂しさで命を終える……。
その時、僕の中で天使の禁はどうでも良くなっていた。
・・・
グウッ
「お腹空いたな……」
下界で姿を見せるということは、受肉するということ。
それは人間の身体を構成することになる。
だから天界では感じることのできない空腹感を感じてしまう。
眞琴さんの部屋へ帰る途中で、パンを焼く匂いがした。
「良い匂い……」
近づくと、パンの端を集めて袋に詰めたものが置いてある。
カランッ
「お兄さん、パンの耳いるの?」
「今なら十円でいいよ」
十円……?
僕は首を傾げた。
「……もういいよ。持って行きな」
その人はそれを僕にくれた。
グウッ
……帰って、眞琴さんと一緒に食べよ!


