僕は既に幾つもの禁を破っている。
・・・・・
僕は天界の魂導科の新米。
先輩たちはノルマも与えられ、休む暇もないほど忙しい。
そもそも命とは、人に限ったものでもない。
だから天使の数は圧倒的に足りていない。
「エイル」
「エイル、居るか?」
メリエル天使長に突然呼ばれた。
「は~い!」
「お前、相変わらずぬるいのう」
「我々の仕事は、終わりを迎える命を見守り、寄り添い、導くことじゃ」
「その対象に姿を見せてはいけない」
「直接干渉してはいけない」
「ましてや個人的な感情を抱いてはならない」
天使長は難しい顔をする。
「なんで今さらまたそんなことを言うんですか?」
「いや、分かっておればそれで良い」
そう言いながら天使長はファイルを見せてきた。
「これは魂導の予定リストじゃ」
「お前も知っての通り、今は猫の手も借りたいところじゃ」
「なので、新人のお前も例外なく対応してもらうことになった」
「でも、放っておいても魂は戻って来るんでしょう?」
天使長は、はあっと溜息をついた。
「その通りじゃ。じゃが魂は未練を抱えたままでは戻って来られなくなるんじゃ」
「その傾向のある命に、魂導天使は寄り添い、導くのだ」
「そして対象がこのファイルじゃ」
僕はそのファイルを見て驚いた。
「それじゃ頼むぞ」
天使長はファイルを渡し、そのまま去って行く。
そのファイルに載っている人を僕は知っている。
それはまだ僕が魂導科に来る、ずっと前のこと。
僕は下界を何となく見ていた。
一匹の猫が命の終わりを迎えようとしていた。
その猫は太陽を友に、
夜を枕に、
大地を恵みとして生きてきた。
家で暮らす猫とは比べることも出来ないほど、その命は短い。
今日、その命は天へ帰ろうとしていた。
魂導天使は見当たらない。
その命に未練は無いのだろう。
そこへ毛布を持って現れた女性がいた。
彼女は猫を抱き上げ、毛布で包み、家へ連れて帰った。
その猫が見た最後の風景が、その部屋だった。
彼女は猫が息を引き取るまで、その横で見守っていた。
櫻来 眞琴さん。
僕は彼女が大好きになった。


