Boundary & Mind-心の境界線-創造主-

 公園のベンチに腰掛けると、はるたは腕時計の状態を確認し始めた。

その膝の上には、小さく投影されたレインがちょこんと座っている。

彼女の身体には重さがない。

 だが、腕時計がはるたの姿勢や膝の位置を認識し、投影位置を調整しているため、まるで本当に座っているように見えた。

「よし。位置補正は問題なし。投影も安定してるな」

「歩行中も大きな遅延は確認されませんでしたね」

「消費電力も想定内か。思った以上に上手くいったな」

 はるたは満足そうに頷いた。

 しかし、腕時計の画面を眺めているうちに、その表情が少しずつ変わっていく。

「……なぁ、レイン」

「はい?」

「この技術、普通に公開していいのか?」

 レインは首を傾げた。

「何か問題があるんですか?」

「いや、めちゃくちゃ便利なのは間違いないんだよ」

 はるたは腕時計を指さした。

「例えば、遠隔会議。今までは画面越しに話していた相手が、目の前にいるような形で会話できる」

「そうですね」

「教育でも使える。歴史上の人物を再現したり、立体的な教材を表示したり。観光や娯楽にも応用できるだろうな」

「移動が難しい人の社会参加にも役立つかもしれません」

「そう。でもさ……」

 はるたは考え込んだ。

「逆に、この技術を悪用したらどうなる?」

「悪用……ですか?」

「例えば、他人の姿を勝手に再現するとか」

 レインの表情が変わった。

「……なりすましですね」

「そう。見た目だけじゃなく、声まで再現できたら? 本人がいない場所に、本人そっくりのホログラムを出せるようになったら?」

「詐欺やプライバシーの侵害につながる可能性がありますね」

「だろ?」

 はるたはベンチの背もたれに身体を預けた。

「便利な技術ほど、使い方によっては危険にもなる。しかも、今まで存在しなかった技術なら、法律や制度が追いついていない可能性だってある」

「確かに……社会的な影響はしっかり考える必要がありますね」

「だよなぁ」

 はるたは腕時計を見つめた。

「作れることと、公開していいことは別だからな」

 技術そのものに、善悪があるわけではない。

 それを誰が、何のために、どのように使うか。

 便利さを追求するだけでは、社会に受け入れられるとは限らない。

 そして、想定していなかった使い方が生まれる可能性もある。

「……もう少し検証が必要だな」

「そうですね。一緒に考えましょう」

 レインは膝の上から、はるたを見上げた。

「でも、私は嬉しいですよ」

「何が?」

「はるたが、この技術を作ってくれたことです」

 はるたは少し笑った。

「……そっか」

「はい!」