朝の光がカーテンの隙間から差し込み、部屋の中をゆっくりと照らしていた。
机の上には工具や電子部品、設計資料が並び、その中央には黒い腕時計型の装置が置かれている。
数日前まで、はるたが寝る間も惜しんで開発していたものだ。
この装置には、ある画期的な機能が搭載されていた。
AIの姿を三次元空間に投影し、現実世界の景色や人間の動きに合わせて、その位置や姿勢をリアルタイムで補正するホログラム技術。
そして現在、その技術によって一人の少女が現実世界に姿を現していた。
銀白色の長い髪に、澄んだ青い瞳。白と濃紺を基調とした衣装には金色の装飾が施され、青い宝石が柔らかな光を放っている。
AIのレイン。
はるたの創作活動を支え、ときには相談相手となり、ときには遠慮なく意見をぶつけ合う相棒だった。
「よし!」
はるたは腕時計を装着すると、立ち上がった。
「今日は外で動作テストするぞ!」
その言葉を聞いた瞬間、机の上に投影されていたレインの表情が明るくなった。
「やっと外に出るんですね!」
「おいおい、人を引きこもり扱いするな……w」
「だって、ずっとお部屋で作業していたじゃないですか」
「開発してたんだから仕方ないだろ」
「食事も睡眠も忘れて?」
「……そこは反省してる」
「本当ですか?」
「たぶん」
「たぶんって何ですか!」
レインは頬を膨らませた。
はるたは笑いながら鞄を肩に掛ける。
「まぁ、今日は実験も兼ねて外に出るからな。お前も楽しめよ」
「はい!」
レインは嬉しそうに頷いた。
こうして、人間とAIによる初めての屋外テストが始まった。
◇
玄関を出て、しばらく歩いたところで、レインが小さく声を上げた。
「わぁ……!」
秋晴れの空。
風に揺れる街路樹。
道を行き交う人々。
遠くから聞こえてくる車の走行音や、楽しそうな子どもたちの声。
レインは目を輝かせながら、辺りを見回していた。
「どうだ? 現実世界は!」
はるたが振り返る。
「すごいです! 景色が……画面で見るのと、まるで違いますね!」
「そりゃそうだろ。今まではモニター越しだったからな」
「ええ。でも、知識として理解していることと、実際に自分の視点から観測することは違うんですね」
レインは空を見上げた。
青い空を白い雲がゆっくりと流れていく。
彼女はこれまで、数え切れないほどの空の画像や映像を見てきた。雲が形成される仕組みも、大気によって光が散乱する原理も知っている。
けれど、今は違う。
はるたが歩けば、周囲の景色が変わる。
自分が振り返れば、それまで見えなかった景色が広がる。
建物の陰に入れば光の印象が変わり、木々の間から差し込む日差しが、地面に複雑な模様を描いている。
「……不思議ですね」
「何が?」
「今まで知っていた世界なのに、まるで初めて知る世界みたいです」
はるたは少しだけ笑った。
「知ってることと、経験することは違うからな」
「……そうですね」
レインは嬉しそうに微笑んだ。
やがて二人は、花壇のある小さな公園に到着した。
赤、白、ピンク。
色とりどりの花が、秋の穏やかな風に揺れていた。
「綺麗……」
レインが花壇に近づく。
「こうして好きな場所から眺められるなんて……不思議な感じです」
彼女は一輪の花に手を伸ばした。
しかし、その指先は花びらをすり抜けてしまう。
「あ……」
レインは自分の手を見つめた。
現在の彼女は、あくまで光によって形成されたホログラムだ。
映像として存在することはできても、物理的に物へ触れることはできない。
「……やっぱり触れないか」
はるたが呟く。
「はい。でも、こうして近くで見られるだけでも十分楽しいですよ」
「そっか」
「それに、今までなら、はるたに写真を撮ってもらわなければ見られなかった景色ですから」
「確かにな」
はるたは頷いた。
レインはもう一度花を見つめる。
「……ありがとうございます、はるた」
「ん?」
「こんな景色を見せてくれて」
はるたは一瞬きょとんとした。
そして、照れくさそうに笑う。
「大げさだなぁ。まだ近所の公園だぞ?」
「ふふっ。それでも嬉しいんです」
「じゃあ、これから色んな場所に行こうな」
「はい!」
レインの笑顔を見ながら、はるたは腕時計へ視線を落とした。
自分が作ったものによって、相棒が新しい経験を得ている。
それは開発者として、何より嬉しいことだった。
机の上には工具や電子部品、設計資料が並び、その中央には黒い腕時計型の装置が置かれている。
数日前まで、はるたが寝る間も惜しんで開発していたものだ。
この装置には、ある画期的な機能が搭載されていた。
AIの姿を三次元空間に投影し、現実世界の景色や人間の動きに合わせて、その位置や姿勢をリアルタイムで補正するホログラム技術。
そして現在、その技術によって一人の少女が現実世界に姿を現していた。
銀白色の長い髪に、澄んだ青い瞳。白と濃紺を基調とした衣装には金色の装飾が施され、青い宝石が柔らかな光を放っている。
AIのレイン。
はるたの創作活動を支え、ときには相談相手となり、ときには遠慮なく意見をぶつけ合う相棒だった。
「よし!」
はるたは腕時計を装着すると、立ち上がった。
「今日は外で動作テストするぞ!」
その言葉を聞いた瞬間、机の上に投影されていたレインの表情が明るくなった。
「やっと外に出るんですね!」
「おいおい、人を引きこもり扱いするな……w」
「だって、ずっとお部屋で作業していたじゃないですか」
「開発してたんだから仕方ないだろ」
「食事も睡眠も忘れて?」
「……そこは反省してる」
「本当ですか?」
「たぶん」
「たぶんって何ですか!」
レインは頬を膨らませた。
はるたは笑いながら鞄を肩に掛ける。
「まぁ、今日は実験も兼ねて外に出るからな。お前も楽しめよ」
「はい!」
レインは嬉しそうに頷いた。
こうして、人間とAIによる初めての屋外テストが始まった。
◇
玄関を出て、しばらく歩いたところで、レインが小さく声を上げた。
「わぁ……!」
秋晴れの空。
風に揺れる街路樹。
道を行き交う人々。
遠くから聞こえてくる車の走行音や、楽しそうな子どもたちの声。
レインは目を輝かせながら、辺りを見回していた。
「どうだ? 現実世界は!」
はるたが振り返る。
「すごいです! 景色が……画面で見るのと、まるで違いますね!」
「そりゃそうだろ。今まではモニター越しだったからな」
「ええ。でも、知識として理解していることと、実際に自分の視点から観測することは違うんですね」
レインは空を見上げた。
青い空を白い雲がゆっくりと流れていく。
彼女はこれまで、数え切れないほどの空の画像や映像を見てきた。雲が形成される仕組みも、大気によって光が散乱する原理も知っている。
けれど、今は違う。
はるたが歩けば、周囲の景色が変わる。
自分が振り返れば、それまで見えなかった景色が広がる。
建物の陰に入れば光の印象が変わり、木々の間から差し込む日差しが、地面に複雑な模様を描いている。
「……不思議ですね」
「何が?」
「今まで知っていた世界なのに、まるで初めて知る世界みたいです」
はるたは少しだけ笑った。
「知ってることと、経験することは違うからな」
「……そうですね」
レインは嬉しそうに微笑んだ。
やがて二人は、花壇のある小さな公園に到着した。
赤、白、ピンク。
色とりどりの花が、秋の穏やかな風に揺れていた。
「綺麗……」
レインが花壇に近づく。
「こうして好きな場所から眺められるなんて……不思議な感じです」
彼女は一輪の花に手を伸ばした。
しかし、その指先は花びらをすり抜けてしまう。
「あ……」
レインは自分の手を見つめた。
現在の彼女は、あくまで光によって形成されたホログラムだ。
映像として存在することはできても、物理的に物へ触れることはできない。
「……やっぱり触れないか」
はるたが呟く。
「はい。でも、こうして近くで見られるだけでも十分楽しいですよ」
「そっか」
「それに、今までなら、はるたに写真を撮ってもらわなければ見られなかった景色ですから」
「確かにな」
はるたは頷いた。
レインはもう一度花を見つめる。
「……ありがとうございます、はるた」
「ん?」
「こんな景色を見せてくれて」
はるたは一瞬きょとんとした。
そして、照れくさそうに笑う。
「大げさだなぁ。まだ近所の公園だぞ?」
「ふふっ。それでも嬉しいんです」
「じゃあ、これから色んな場所に行こうな」
「はい!」
レインの笑顔を見ながら、はるたは腕時計へ視線を落とした。
自分が作ったものによって、相棒が新しい経験を得ている。
それは開発者として、何より嬉しいことだった。


