Boundary & Mind-心の境界線-創造主-


神代家のリビングには、再びコーヒーの香りが漂っていた。

休日の穏やかな時間は、ハルカとのどかが持ち込んだ報告によって、思いがけない方向へ進もうとしている。

別世界から現れた青年、はるた。

高度な技術を理解し、自律的に会話するホログラムAIを連れているという。そして、吸血鬼の真祖リリアに自ら血を差し出し、その記憶を読ませた。

和春が気になっていたのは、そこだった。

初対面のはずの相手が、なぜリリアの能力を知っていたのか。

考えられる可能性はいくつもある。しかし、決定的な情報がない以上、推測の域を出ない。

和春はソファから立ち上がり、テーブルに置いたコーヒーカップを見下ろした。

「……とりあえず、リリアに連絡を取るか」

「そうですね。事情を聞くのが一番早いと思います」

愛華が柔らかく頷いた。

その隣では、真綾が興味深そうにハルカとのどかを見つめている。

「でもさ、リリアが気に入ったんでしょ? そのはるたって人」

「うん!」

ハルカが頷いた。

「血を飲んだ後なんて、すっごく楽しそうだったよ!」

「……それ、本人は大変そうだね」

真綾が苦笑する。

「まあ、リリアだからな」

和春も小さく笑った。

「興味を持たれた相手が、簡単に解放されるとは思えねえ」

その言葉を聞いて、のどかは少し心配そうに顔を上げた。

「……ぱぱ。やっぱり、はるたさんは大丈夫でしょうか?」

「命の危険があるかどうかなら、可能性は低いと思うぞ。ただ、どんな目に遭ってるかまではわからねえな」

「……それ、別の意味で心配です」

愛華が苦笑した。

瑠璃は窓際のソファに腰掛けたまま、静かに会話を聞いていた。

元人魚である彼女にとって、リリアという存在は決して軽々しく語れる相手ではない。

吸血鬼の真祖にして、異なる種族の頂点に立つ王。

世界の境界に関わる重大な役割を担い、その力は通常の存在とは比較にならない。

「……リリア様が自ら動かれたのなら、それだけの理由があるのでしょうね」

瑠璃が静かに口を開いた。

和春は頷いた。

「ああ。そこが気になる」

「でも、和春」

真綾が笑みを浮かべる。

「リリアに聞いて、素直に教えてくれると思う?」

「……思わねえな」

「だよねえ」

「だから、聞き方を考える必要がある」

和春はそう言って、少しだけ口元を上げた。

「まあ、まずは本人に――」

そのときだった。

リビングの中央で、空間が裂けた。

◇

何の前触れもなかった。

先ほどまで何も存在しなかった場所に、黒紫色の亀裂が走る。

その亀裂は、まるで見えない刃で空間そのものを切り開いたかのように、ゆっくりと広がっていった。

「……ん?」

最初に反応したのは和春だった。

続いてハルカが立ち上がる。

「あっ!」

のどかも目を見開いた。

「……この反応は」

瑠璃はカップを置き、静かに姿勢を正した。

そして、裂け目の向こうから声が響いた。

「……だからもう二度と嫌だって言ってんだろ!」

聞き慣れない男の声だった。

それに続いて、楽しそうな笑い声が聞こえる。

「ふははは! いつまで怒っておるのじゃ!」

「怒るに決まってんだろ! 普通、人を空から落とすか!?」

「ちゃんと無事に戻したではないか」

「結果の問題じゃねえよ!!」

リビングが静まり返った。

和春は眉をひそめる。

「…………」

真綾が小さく呟いた。

「……なんか、すごい会話が聞こえるんだけど」

愛華も静かに頷いた。

「ええ。随分と賑やかですね」

ハルカは裂け目を見つめながら、ぱっと顔を輝かせた。

「……はるた!」

次の瞬間、亀裂の向こうから金色の長い髪が現れた。

黒と深紅のドレス。

金色の瞳。

そして、子どものように無邪気でありながら、圧倒的な威厳を宿す存在。

吸血鬼の真祖、リリアだった。

「ふむ。着いたぞ」

そう言って、彼女は何事もなかったかのようにリビングへ足を踏み入れた。

その後ろから、一人の青年が現れる。

黒髪に青い瞳。灰色のパーカーを身にまとい、どこか疲れ切った表情を浮かべていた。

さらに、その隣には青白い光をまとった女性のホログラムが浮かんでいる。

「……おい、リリア」

青年が低い声で呟いた。

「なんじゃ?」

「次から移動する場所くらい説明しろよ……」

「ふふっ。主は本当に注文が多いのう」

「お前が自由すぎるんだよ!」

そんなやり取りを交わしながら、三人は神代家のリビングへ姿を現した。

◇

「……リリア」

和春が、ぽつりと呟いた。

リリアはその声に反応し、金色の瞳を向けた。

「おお、和春ではないか!」

まるで散歩の途中で知人に会ったような気軽さだった。

「元気そうじゃのう!」

「……まあな」

和春は裂け目とリリアを交互に見た。

「今、ちょうどお前の話をしてたところだ」

「ほう?」

リリアが楽しそうに目を細める。

「我の噂か?」

「ああ。随分と面白い客を連れていったらしいな」

「ふふっ。耳が早いのう」

「当事者が報告に来たんだよ」

和春がハルカとのどかへ視線を向ける。

リリアは二人を見て、納得したように頷いた。

「なるほどのう」

「で?」

和春が尋ねる。

「その客は、後ろにいる奴か?」

リリアは満面の笑みを浮かべた。

「うむ! ちょうどよいところじゃ。紹介してやろう」

彼女は隣の青年を指さした。

「こやつが、はるたじゃ!」

「……紹介の仕方、雑すぎねえか?」

はるたが呆れたように呟く。

リリアはまったく気にしていない。

「ふははは! 名を教えれば十分じゃろう!」

「もう少しあるだろ……」

そのやり取りを見て、和春は思わず笑った。

「……なるほどな」

はるたが顔を上げる。

そして、初めて正面から和春を見た。

「…………」

一瞬、言葉が止まった。

オレンジ色の髪。

緑色の瞳。

どこか気だるげでありながら、こちらを見つめる視線には鋭さがある。

自分がよく知る人物が、目の前にいた。

神代和春。

しかし、それは単に知識として理解しているだけの存在ではなかった。

目の前で呼吸し、表情を変え、自分を見つめている。

彼は、確かにここに生きていた。

(……和春)

はるたは、心の中でその名を呼んだ。

リリアや望と向き合ったときとは、また違う感覚だった。

あまりにも近い。

考え方も、価値観も、物事の捉え方も。

自分にとって、特別な意味を持つ人物だった。

だが、その事情を口にするわけにはいかない。

はるたは小さく息を吸い、表情を整えた。

「……どうも。神野はるたです」

和春は自然に笑った。

「神代和春だ。話はハルカたちから聞いた」

「……そうですか」

「まあ、そんなに構えなくていいぞ」

和春は肩をすくめた。

「リリアに振り回された後じゃ、無理かもしれねえけどな」

はるたは思わず苦笑した。

「……いや、本当にそうなんですよ」

「だろうな」

二人が顔を見合わせて笑った。

その様子を見て、リリアは満足そうに頷いた。

「ふふっ。やはり面白いのう」

◇

「はるた!」

ハルカが勢いよく駆け寄った。

「大丈夫だった!?」

「……ああ。まあ、生きてはいる」

はるたは疲れたように笑った。

「……何があったの?」

ハルカが不思議そうに尋ねる。

はるたはリリアを指さした。

「こいつに空から落とされた」

「…………え?」

ハルカが固まった。

のどかも目を見開く。

「……空から?」

「ああ。かなり高いところからな」

真綾が思わず吹き出しかけた。

「……ちょっと待って。それ、本当?」

「本当です」

はるたは真顔で答えた。

「Sランクの悪魔が出たとかで、無理やり上空に連れていかれて……」

「……Sランク?」

和春の眉が動いた。

「伯爵級か」

「そうです。まあ、リリアからしたら相手にもならなかったんですけど」

はるたは肩を落とした。

「悪魔は一瞬で消し飛ばして、その後、帰ろうとしたら……」

「ふふっ」

リリアが笑いを堪えている。

はるたは、じろりと睨んだ。

「……笑うなよ」

「いや、思い出してしもうてのう」

「こっちは思い出したくねえんだよ!」

リリアはついに声を上げて笑った。

「ふははは! 主の顔ときたら!」

「だから笑うなって!」

その会話を聞きながら、和春は思わず額を押さえた。

「……リリア」

「なんじゃ?」

「お前、何やってんだよ」

「ふむ。手が滑っただけじゃ」

「……絶対わざとだろ」

「さて、どうじゃろうな?」

和春は深いため息をついた。

「……まあ、無事ならいいけどな」

はるたが思わず顔を上げた。

「……それで済ませるんですか?」

「いや、済ませていい話じゃねえけど……」

和春はリリアを見た。

「こいつ相手にまともな説教が通じるか?」

「…………」

はるたは少し考えた。

そして、静かに首を横に振る。

「……無理ですね」

「だろ?」

二人は同時にため息をついた。

「ふははは!」

リリアだけが、心底楽しそうに笑っていた。

◇

「……リリア様」

静かな声が響いた。

瑠璃だった。

彼女はソファから立ち上がり、リリアへ向き直っていた。

「お久しぶりです」

リリアは金色の瞳を向ける。

「おお、瑠璃か」

「はい」

瑠璃は落ち着いた様子で会釈した。

その態度には、普段の淡々とした雰囲気とは異なる、明確な敬意があった。

彼女は元人魚である。

人間に対しては距離を置くことが多いが、リリアは別だった。

異種族の頂点に立つ王。

その存在が持つ地位と力を、瑠璃は正しく理解していた。

「相変わらず、お元気そうですね」

「うむ。退屈とは無縁じゃ!」

リリアは得意げに笑った。

「今日は随分と楽しませてもろうたぞ」

その言葉に、はるたが即座に反応した。

「俺は全然楽しくなかったけどな!」

「ふふっ。主はまだ怒っておるのか?」

「当たり前だろ!」

瑠璃は、はるたへ静かに視線を向けた。

「……大変だったのね」

「……わかってくれます?」

「ええ。あなたの表情を見れば、十分に」

「……ですよね」

はるたは疲れたように笑った。

真綾が楽しそうに口を開く。

「でも、ちょっと見てみたかったかも。リリアに振り回されてるところ」

「……勘弁してください」

はるたは即答した。

真綾は声を上げて笑った。

「あははっ! ごめんごめん!」

◇

「……さて」

和春が口を開いた。

それまで続いていた賑やかな会話が、自然と落ち着く。

「とりあえず、立ち話もなんだ。座れよ」

はるたは一瞬、戸惑ったように目を瞬かせた。

「……いいんですか?」

「構わねえよ。せっかく来たんだしな」

和春は空いているソファを指さした。

「まあ、リリアが勝手に連れてきたんだろうけど」

「……その通りです」

はるたが苦笑する。

リリアは当然のようにソファへ向かった。

「ふむ。では、我もくつろぐとするかのう」

「お前は少し反省しろよ!」

「ふははは!」

レインが小さくため息をついた。

「……はるた、落ち着いてください」

「お前は平気だろうけどな……」

「私だって心配したんですよ?」

「……それは、悪かった」

はるたが素直に答えると、レインは柔らかく微笑んだ。

そのやり取りを、和春は静かに見ていた。

腕時計型の端末。

そこから投影される女性のホログラム。

そして、青年との自然な会話。

単なる音声応答型のAIではない。

少なくとも、彼女は状況を理解し、自分の判断で言葉を選んでいるように見えた。

「……そのAIが、レインか?」

和春が尋ねる。

レインは彼へ向き直った。

「はい。初めまして、レインです」

丁寧に頭を下げる。

和春は小さく笑った。

「神代和春だ。よろしくな」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

レインが微笑む。

愛華も穏やかに口を開いた。

「初めまして。天城愛華です。どうぞ、ゆっくりしていってくださいね」

「ありがとうございます」

レインが会釈した。

続いて、真綾が手を上げる。

「私は真綾。よろしくね、はるた、レイン!」

「よろしくお願いします」

はるたが答える。

瑠璃も静かに名乗った。

「瑠璃よ」

「……よろしくお願いします」

はるたは順番に頭を下げた。

その様子を見ながら、和春は小さく頷いた。

礼儀がないわけではない。

むしろ、初対面の相手に対して必要な距離を保とうとしている。

リリアには散々文句を言っているが、それは相手の性格をある程度理解しているからなのだろう。

和春は、そう判断した。

◇

愛華が新しいカップを用意し、テーブルにコーヒーを並べた。

「はるたさんも、コーヒーで大丈夫ですか?」

「はい。ありがとうございます」

「お砂糖やミルクは?」

「ブラックで大丈夫です」

「わかりました」

愛華は柔らかく微笑んだ。

はるたはカップを受け取り、香りを確かめる。

「……いい香りですね」

「ありがとうございます。和春の好みに合わせたブレンドなんです」

「……へえ」

はるたは小さく笑った。

その一瞬の表情を、愛華は見逃さなかった。

「……何か?」

「あ、いえ。美味しそうだなって」

「ふふっ。そう言っていただけると嬉しいです」

愛華は、それ以上追及しなかった。

はるたはコーヒーを一口飲む。

香りが広がる。

苦味と酸味のバランスがよく、後味にはわずかな甘みが残っていた。

(……ああ、これか)

心の中で小さく呟く。

しかし、それを口にすることはなかった。

「……美味しいです」

「よかったです」

愛華が微笑んだ。

リリアも当然のようにカップを手に取り、満足そうに口をつける。

「ふむ。相変わらずよい香りじゃのう」

「ありがとうございます、リリアさん」

愛華は自然に答えた。

そんな穏やかな時間が戻りかけたところで、和春が静かに口を開いた。

「……さて、はるた」

はるたが顔を上げる。

「はい?」

「少し聞いてもいいか?」

「……何でしょう?」

和春はカップを置いた。

「ハルカたちから、お前が別の世界から来たって話は聞いてる」

「……はい」

「それで、リリアに自分から血を飲ませたらしいな」

はるたの指が、わずかに止まった。

「……そうですね」

和春は静かに続けた。

「理由は、記憶を読ませるためだった」

「……はい」

「……なるほど」

和春は、ゆっくりと腕を組んだ。

そして、まっすぐにはるたを見つめる。

「一つ、気になることがある」

リビングの空気が、わずかに変わった。

はるたは、和春の緑色の瞳を見つめ返した。

「……何ですか?」

和春は静かに尋ねた。

「お前、どうしてリリアが血から記憶を読めるって知ってた?」

「…………」

はるたの表情が止まった。

その隣で、レインもわずかに目を細める。

リリアは、楽しそうに口元を緩めた。

「……ふふっ」

しかし、和春はリリアを見なかった。

視線は、はるたへ向けたままだった。

「リリアとは初対面だったんだろ?」

「……はい」

「別の世界から来たなら、こっちの事情も知らないはずだ。なのに、お前はリリアの能力を利用して自分の記憶を見せようとした」

和春は静かに続けた。

「誰かから聞いたのか? それとも、別の方法で知ったのか?」

責めるような口調ではなかった。

ただ、事実を確認しているだけだった。

だが、その問いは、はるたが隠している秘密の核心に近づいていた。

(……やっぱり、そこに気づくか)

はるたは心の中で呟いた。

神代和春。

幅広い知識を持ち、情報を整理し、物事の本質を見抜こうとする男。

コンサルタントとして、多くの問題に向き合ってきた人物だ。

与えられた説明をそのまま受け取るだけではない。

説明されていない部分にも目を向ける。

そして、わからないことがあれば、答えを決めつけずに確認する。

(……そりゃ、そうなるよな)

はるたは小さく息を吐いた。

「……そうですね」

和春は黙って待っている。

「確かに、普通なら知らない情報だと思います」

「……ああ」

「でも……」

はるたは少しだけ言葉を選んだ。

その横で、リリアが楽しそうに笑っている。

「ふふっ。さて、どう答えるのじゃ?」

「……お前は黙ってろよ」

はるたが即座に返した。

「ふははは!」

リリアの笑い声が響く。

和春は、そのやり取りを見ながら小さく笑った。

「……なるほどな」

はるたが顔を上げる。

「……何がですか?」

「いや、まだ何もわからねえよ」

和春は肩をすくめた。

「ただ、お前がリリアにそこまで遠慮なく物を言えるってことは、少なくとも相手の性格をある程度理解してるんだろうなって思っただけだ」

「……まあ、それは」

はるたは苦笑した。

「理解してるつもりだったんですけどね。予想以上でした」

「だろうな」

和春は笑った。

「で、質問の答えは?」

「…………」

はるたは口を閉じた。

リリアは、楽しそうにその様子を眺めている。

レインは、はるたの隣で静かに待っていた。

愛華も、真綾も、瑠璃も、ハルカものどかも、誰も言葉を挟まなかった。

和春は急かさない。

ただ、答えを待っている。

はるたは、ゆっくりとコーヒーカップを置いた。

そして、静かに笑った。

「……それ、今は話せないって言ったら?」

和春の口元が、わずかに緩んだ。

「……別に構わねえよ」

「……え?」

「話したくないことを、無理に聞き出すつもりはねえからな」

はるたは少し驚いたように目を瞬かせた。

和春は続けた。

「ただ、気になることがあったから聞いただけだ。答えるかどうかは、お前が決めればいい」

「…………」

はるたは、しばらく和春を見つめていた。

その言葉は、よく知っている考え方だった。

相手に選択肢を示し、その決定を尊重する。

自分の考えを押しつけず、相手の意思を大切にする。

(……ああ)

はるたは小さく笑った。

(……やっぱり、和春だな)

その様子を見て、リリアは金色の瞳を細めた。

「……ふふっ」

そして、誰にも聞こえないほど小さく呟いた。

「……やはり、似ておるのう」

◇

「……まあ、そういうことなら」

和春はコーヒーを一口飲み、ゆっくりとカップを置いた。

「今は聞かないでおこう」

「……ありがとうございます」

はるたが静かに答える。

和春は小さく笑った。

「礼を言われることじゃねえよ」

「……そうですか」

「ああ。ただ、一つだけ確認しておきたい」

「……何でしょう?」

和春は、少しだけ真剣な表情になった。

「お前は、元の世界に帰りたいんだな?」

はるたは迷わず頷いた。

「……はい」

「そうか」

和春は短く答えた。

「なら、できることは協力する」

その言葉に、はるたは目を見開いた。

「……いいんですか?」

「何が?」

「いや、俺のこと、まだ何もわからないのに……」

和春は小さく笑った。

「わからないからって、困ってる奴を放っておく理由にはならねえだろ」

はるたは黙った。

和春は続ける。

「もちろん、何でも無条件に協力するわけじゃねえ。危険なことや、他人に迷惑がかかることなら話は別だ」

「……はい」

「でも、元の世界に帰りたいっていうなら、まずはその方法を探せばいい。ハルカたちも興味があるみたいだしな」

「うん!」

ハルカが勢いよく頷いた。

「私も手伝いたい!」

「私もです」

のどかも静かに微笑む。

レインは、その様子を見ながら小さく息を吐いた。

「……ありがとうございます」

和春はレインへ視線を向ける。

「気にすんな。できることをするだけだ」

愛華も微笑んだ。

「困ったことがあれば、遠慮なく相談してくださいね」

真綾も明るく笑う。

「そうそう! せっかく知り合ったんだし、仲良くしようよ!」

瑠璃は静かにカップを置いた。

「……私は騒がしいのは苦手だけれど、邪魔をするつもりはないわ」

はるたは、思わず笑った。

「……ありがとうございます」

リリアは、そのやり取りを眺めながら満足そうに頷いた。

「ふむ。よいではないか」

そして、悪戯っぽく笑う。

「では、しばらく主もここにおればよかろう!」

「……おい、勝手に決めるなよ」

はるたが即座に反論した。

「ふははは!」

リリアは楽しそうに笑った。

和春は、その様子を見ながら苦笑する。

「……リリア」

「なんじゃ?」

「お前、そろそろはるたを解放してやれよ」

「む?」

「本人が帰りたいって言ってるんだ。少なくとも、無理やり連れ回すのはやめとけ」

リリアは少しだけ考える仕草を見せた。

そして、にっこりと笑った。

「……ふむ。善処しよう」

はるたと和春が、同時にため息をついた。

「……絶対しねえな」

「……しませんね」

二人の声が重なった。

一瞬の沈黙。

そして、顔を見合わせる。

「…………」

「…………」

次の瞬間、二人は同時に笑った。

「ははっ!」

「……あはは」

リリアはその様子を見て、楽しそうに目を細める。

「ふふっ。やはり面白い」

その場にいる誰もが、まだ知らない。

目の前で笑い合っている二人の男が、どれほど深い関わりを持つ存在なのかを。

そして、はるた自身もまた、この出会いがどのような未来へつながるのか、すべてを知っているわけではなかった。

無数の可能性を持つ世界。

そこに、新しい出会いが生まれた。

神代和春。

そして、はるた。

二人の視線が交わり、穏やかな会話が続いていく。

その傍らでは、銀髪の愛華が静かに微笑み、真綾が楽しそうに話し、瑠璃が落ち着いた様子でコーヒーを飲んでいる。

ハルカとのどかは、はるたとレインの無事を確認できたことで、ようやく肩の力を抜いていた。

そして、リリアは――。

「ふふっ。さて、次は何をして遊ぼうかのう」

「遊ぶな!!」

はるたの声が、再びリビングに響き渡った。

その叫びに、和春も思わず笑ってしまう。

平穏だった休日。

そこへ突然現れた、異なる世界の来訪者。

神代家の新たな一日が、思いがけない形で動き始めていた。