君という夢を描いて 【The after story】―Embrace it all―


 *

 翌朝。

「い……痛い」
 トイレから戻ると、梨歩はベッドの端に手をつく。
「地獄過ぎる……」

 会陰が裂けた。
 そして、トイレのたびにその傷に塩を塗りたくられたような激しい痛みに加え――。
「ガーディナーさん、悪露のチェックしますね」
「ひいっ! 無理矢理!」
「子宮が収縮してる最中だから痛いかもしれないけど、我慢してね」
「嫌だ、超痛いから」
「はい、横になりますよ」
 助産師の悪露チェック。からの……。

「あら? 悪露が少ないですね。子宮の戻りも確認します。ちょっとお腹触りますよ」
「くぅ……っ」
「子宮の戻りがちょっと悪いですね。中に悪露が溜まってるかもしれないので、ちょっと押しますね。せーの……」
「ぎゃああああ!!」
「やっぱり少し溜まっているみたいなので、ここでしっかり出しておきましょうね。溜まったままだと、もっと後が大変だから」
「拷問級に痛いの無理――!!」
「はい、もう一回押しますね」
「んがああああっ!!!!」
 
 ただでさえ、子宮が元の大きさへ戻ろうと収縮するたびに襲ってくる後陣痛。
 そこへさらに、腹部を押される痛みまで重なる。
 産むまでの痛みが最高潮だと思っていた。
「……お腹も、お股も……これ以上、殺さないで」
 梨歩には、問答無用で押された腹部の痛みが焼き付いて離れず、鮮明な恐怖として残った。

 そして、亞紗斗が梨歩の元に帰って来る。
「ものすごい悲鳴だったが……生きてるか?」
「亞紗斗さん……」
 梨歩は涙目で訴える。

「裂けたお股の傷にさ、オシッコかかるときの痛みって……想像できる?」
「……想像したくない」
「今まさにそれなんだよ、あたし」
「……エグいな」
「さらに、大きくなった子宮が元の大きさに戻っていこうとするのって……内臓が内側からベリベリ剥ぎ取られるくらい痛いの」
「剥がれたことないから、わからん」
「あたしも初めてだよ! これ、陣痛よりヤバいかも」
「男には永遠にわからない痛みだな」
「そのお腹をさ、圧かけて押されるんだよ! 勢いで中の臓物絞り出そうになるの! 圧かけられたお腹に助産師さんの手の平が当たるだけでピリピリした痛みもあるのに、内側からも内臓が裂けたかってくらいの鋭い痛みが全身に走るの! 産んで終わりじゃなかったの! 痛みはエンドレス!」

「……つまり、どうしようもない痛みが今も続いて。どうにもならんことを喋らずにはおれんってことか」
「よくわかんないけど、そんな感じ」
「ほんま、エグいな」
「……」
 梨歩が沈黙する。

「何だ」
「今、違う人と喋ってるのかと思った」
「?」
「関西地方にいるような錯覚に陥った」
「!」
「亞紗斗さん、出身どこだっけ?」
「アメリカだ」
「日本じゃないんだ」
「アメリカで生まれて、日本に来た」
「そうか。でも、確か亞紗斗さんのお母さんって――」
「日本人だ。それ以外の何者でもない」
「?」
「さっきの、拷問級の痛みだったんだろう。辛かったな」
「ああ、そうだ。それそれ。明日もこれがあると思うと……」
「とりあえず、飲んどけ」
 亞紗斗が買い込んだドリンクを置いた。

「亞紗斗さん」
「何だ」
「あたしに、オシッコさせようとしてる?」
「むしろ、出さないとダメだろう。まさか、痛みが怖くて水分摂取を避けているわけじゃ……」
「ギクッ」

「図星か」
「……だって、お股裂けてるから。水分避けるのは、自然の摂理というか」
「逆効果だ」
「亞紗斗さんも、お股裂ければわかるよ」
「たとえ裂けたとしても、俺なら気合いで飲む」
「気合いじゃどうにもならないこともあるんだって!」
「飲んでから言え」
「裂けてから言え!」
 二人の掛け合いは、エンドレスに続いた。